「人材派遣会社を設立したいが、何から始めればよいか分からない」とお悩みではありませんか?
この記事では、2026年最新の法改正を踏まえ、派遣事業の許可要件(資産要件・派遣元責任者・事務所条件)や必要資金、法人設立から労働局への申請手順までを徹底解説します。
結論として、派遣会社設立の鍵は「基準資産額2,000万円以上などの自己資金確保」と「要件を満たす事務所選定」です。
この記事を読めば、実務の流れや初期費用、失敗しない資金繰り対策が網羅的に理解でき、スムーズな開業準備が整います。
1. 人材派遣会社の設立における基本知識と市場動向
人材派遣業への新規参入を検討する際、まずはその基本的な仕組みと現在の市場環境を正しく理解することが不可欠です。
人材派遣ビジネスは、労働者、派遣元(派遣会社)、派遣先(クライアント企業)の3者間で成り立つ独自のビジネスモデルであり、国の許認可が必要な規制事業でもあります。
ここでは、起業にあたって知っておくべき基礎知識と、近年の市場動向について詳しく解説します。
1.1 労働者派遣事業の仕組みと種類
労働者派遣事業とは、派遣会社が雇用する労働者を、派遣先の指揮命令のもとで労働に従事させる事業のことです。
一般的な直接雇用(正社員やアルバイトなど)とは異なり、「雇用関係」と「指揮命令関係」が分離している点が最大の難しさであり特徴です。
| 項目 | 登録型派遣(一般労働者派遣) | 常用型派遣(特定労働者派遣※法改正により廃止) |
|---|---|---|
| 雇用形態 | 派遣期間中のみ雇用契約を結ぶ | 派遣期間外も常時雇用(正社員など)する |
| 特徴 | 求職者を登録しておき、案件発生時に雇用契約を結んで派遣する一般的な形態。 | 景気の変動に関わらず、労働者の雇用と給与が保障される安定した形態。 |
| 許認可制度 | 厚生労働大臣の「許可」が必要 | (現在は「許可制」に一本化され、届出制は廃止) |
2015年の労働者派遣法改正により、それまで届出制であった「特定労働者派遣事業」は廃止され、すべての労働者派遣事業が「許可制」に一本化されました。
そのため、現在新たに人材派遣会社を設立して事業を行うためには、資本金や事務所の要件などをクリアし、厚生労働大臣から正式な「労働者派遣事業許可」を得る必要があります。
1.1.1 紹介予定派遣という選択肢
派遣事業の形態の一つに「紹介予定派遣」があります。
これは、将来的に派遣先に直接雇用(正社員や契約社員など)されることを前提として、一定期間(最長6ヶ月)派遣労働者として就業する仕組みです。
派遣期間中に企業と求職者が互いの適性を見極められるため、採用ミスマッチを防ぐ有効な手段として、多くの企業から需要が高まっています。
派遣事業の許可を得ていれば、有料職業紹介事業の許可をあわせて取得することで、この紹介予定派遣を行うことが可能です。
1.2 人材派遣会社を設立するメリットと将来性
労働人口の減少が深刻化する日本国内において、人材派遣ビジネスは非常に高い需要を持ち続けています。
起業家にとって、人材派遣会社を設立することには多くのメリットと将来性があります。
1.2.1 継続的なストック型の収益モデル
人材派遣ビジネスの最大のメリットは、一度派遣契約が成立し、派遣労働者が就業を続ける限り、毎月継続的に派遣料金が支払われるストック型のビジネスモデルである点です。
単発の物販や請負業とは異なり、稼働人数が増えるほど売上と利益が積み上がっていくため、事業の安定性を確保しやすいという特徴があります。
1.2.2 人手不足という社会的課題へのアプローチ
少子高齢化に伴う労働力不足は、日本国内のほぼすべての産業において共通の深刻な課題です。
特にIT、介護、建設、物流、そしてDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進する専門職の分野では、人材の獲得競争が激化しています。
こうした企業の「人材不足」という経営課題を直接解決できるため、サービスとしての価値が極めて高く、景気の波があっても一定のニーズが常に存在します。
1.2.3 多様な働き方の普及による市場の追い風
ライフスタイルの多様化や、副業・兼業の解禁、フリーランスとしての働き方の浸透など、労働者側の意識も大きく変化しています。
「特定の企業に縛られず、自分のスキルを活かして働きたい」「育児や介護と両立しながら週3日だけ働きたい」といった労働者のニーズに対して、柔軟な働き方を提供できる人材派遣は、これからの時代の労働市場において必要不可欠なインフラとなっています。
特定の業界や職種に特化した「特化型派遣」や、地方の労働力を活かす地域密着型のビジネスモデルを展開することで、後発の新規設立会社であっても十分に市場シェアを獲得するチャンスがあります。
2. 人材派遣会社の設立に必要な4つの許可要件

人材派遣業(労働者派遣事業)を始めるためには、厚生労働大臣の許可を受ける必要があります。
この許可を得るためには、国が定めた厳しい基準をクリアしなければなりません。要件を満たさずに申請を行っても、労働局で受理されず設立スケジュールが大幅に遅れる原因となります。
ここでは、人材派遣会社の設立において最も重要となる「4つの許可要件」について、実務レベルで徹底解説します。
2.1 資産要件と基準資産額のルール
人材派遣業は、派遣労働者の雇用を維持し、給与を遅滞なく支払う義務があるため、経営基盤の安定性が厳しく求められます。
そのため、許可要件の中で最もハードルが高いとされるのが「財産的基礎(資産要件)」です。
この要件は、申請を行う事業所(本店や支店など)の数に応じて満たす必要があります。
2.1.1 基準資産額と自己資金の具体的な基準
資産要件をクリアするためには、直近の決算書(新設法人の場合は設立時の貸借対照表)において、以下の3つの基準をすべて同時に満たしている必要があります。
| 要件項目 | 基準値(1事業所あたり) | 計算方法と注意点 |
|---|---|---|
| 基準資産額 | 2,000万円以上 | 「資産の総額」から「負債の総額」を差し引いた額(繰延資産や営業権などを除く)が2,000万円以上であること。※2事業所目以降は1事業所につき1,000万円を加算。 |
| 現預金額 | 1,500万円以上 | 自己資金として、預金・現金の合計額が1,500万円以上あること。※2事業所目以降は1事業所につき800万円を加算。 |
| 負債比率の制限 | 基準資産額が負債総額の7分の1以上 | 「基準資産額」が「負債の総額」の7分の1以上(約14.2%以上)であること。 |
新設法人の場合は、資本金を2,000万円以上に設定して登記することで、設立当初の第1期目においてこの要件をスムーズにクリアすることができます。
2.2 派遣元責任者の選任と講習受講
派遣労働者の適切な雇用管理や苦情処理、個人情報の保護などを行うため、事業所ごとに専任の「派遣元責任者」を配置しなければなりません。
派遣元責任者は誰でもなれるわけではなく、一定の適格要件を満たし、所定の講習を修了していることが求められます。
2.2.1 派遣元責任者の主な選任基準
派遣元責任者として認められるためには、以下の要件をすべて満たす必要があります。
- 未成年者ではなく、破産者であって復権を得ないものに該当しないこと。
- 一定の雇用管理経験(成人の労働者の雇用管理業務に3年以上従事した経験など)を有すること。
- 「派遣元責任者講習」を受講してから3年以内であること(新規申請の場合は受講証明書の提出が必須)。
- 在籍する事業所に常勤し、専任で業務に従事できること(他社との兼務や、極端に遠方に居住している場合は認められません)。
- 派遣労働者100人あたり1人以上の割合で配置すること。
2.3 事務所の広さと場所に関する要件
派遣事業を行うためのオフィス(事務所)についても、構造や広さに関する厳格なルールが設けられています。
自宅をそのまま事務所として申請する場合や、バーチャルオフィス、シェアオフィスを利用する場合は特に注意が必要です。
2.3.1 事業所の構造と面積の基準
労働局の現地調査において、以下の事務所要件が満たされているかどうかがチェックされます。
- 事業に使用する面積が「おおむね20平方メートル以上」確保されていること。
- 個人情報や登録スタッフのプライバシーを守るため、個室の面談スペースや、施錠できるキャビネット(書庫)が設置されていること。
- 居住スペースや他社が入居するスペースと、派遣事業のオフィスが明確に壁やパーテーションで仕切られており、独立した出入り口があること。
- 賃貸物件の場合、契約書の使用目的が「事務所」や「店舗」となっており、派遣事業としての転貸や使用許可が得られていること。
2.4 キャリアアップ教育訓練計画の策定
労働者派遣法の改正以降、派遣元企業には派遣労働者に対する「段階的かつ体系的な教育訓練(キャリアアップ教育)」の実施が義務付けられています。
許可申請の際には、具体的な教育訓練計画書を作成し、労働局へ提出しなければなりません。
2.4.1 キャリアアップ教育訓練に求められる内容
教育訓練計画は、単に研修を行うだけでなく、以下の基準をクリアしている必要があります。
- 派遣労働者全員を対象とし、最初の3年間は毎年1回以上、無償かつ有給で教育訓練を実施する計画であること(受講時間中も給与を支払う必要があります)。
- 職種やキャリアパスに応じた、段階的かつ体系的なカリキュラムが組まれていること。
- 入職時の研修だけでなく、キャリアアップに応じた専門的な訓練や、マナー・安全衛生に関する研修が含まれていること。
- 派遣労働者に対する「キャリアコンサルティング」の相談窓口を設置し、専門の担当者(キャリアコンサルタントなど)を配置すること。
3. 人材派遣会社の設立に必要な資金と初期費用

人材派遣会社を設立・運営するためには、他業種と比べても非常に多くの資金が必要となります。
これは、派遣労働者への給与支払いが先行し、クライアント企業からの売掛金回収が後になるというビジネスモデル上の特性があるためです。
ここでは、設立時に求められる厳格な資金ルールと、実際に発生する具体的な初期費用の内訳を徹底的に解説します。
3.1 資本金と基準資産額の違い
人材派遣業の許可を得るための最大の難所とも言えるのが、資金に関する要件です。
ここで重要となるのが、「資本金」と「基準資産額」の違いを正しく理解することです。
登記上の資本金を満たしているだけでは派遣事業の許可は下りません。
3.1.1 資本金とは
資本金とは、会社を設立する際に株主(出資者)が払い込んだ手元資金の総額であり、登記簿謄本に記載される金額です。
人材派遣会社を設立する場合、後述する基準資産額の要件をクリアするために、実務上は2,000万円以上の資本金を設定して登記するのが一般的です。
3.1.2 基準資産額とは
基準資産額とは、会社の「資産の総額」から「負債の総額」を差し引いた、実質的な純資産額のことです。
人材派遣事業の許可申請において、労働局はこの基準資産額を極めて厳格に審査します。
基準資産額は、以下の計算式で算出されます。
◆ 基準資産額 = 資産の総額(繰延資産及び営業権を除く) - 負債の総額
3.1.3 派遣事業許可における「資産要件」のトリプルルール
派遣事業の新規許可を取得するためには、資金面において以下の3つの条件(トリプルルール)をすべて同時に満たしている必要があります。
1事業所あたりの具体的な要件は以下の通りです。
| 要件項目 | 具体的な基準値 | 要件の詳細と注意点 |
|---|---|---|
| 基準資産額 | 2,000万円以上 × 事業所数 | 派遣事業を行う事業所が1つの場合は2,000万円以上が必要です。2店舗目以降は、1事業所につき1,000万円が加算されます。 |
| 自己資金(現預金額) | 1,500万円以上 × 事業所数 | 基準資産額のうち、自己資金(現預金)の額が1,500万円以上あることが求められます。2店舗目以降は、1事業所につき800万円が加算されます。 |
| 負債比率 | 基準資産額が負債総額の7分の1以上 | 負債が多すぎる財務状況では許可が下りません。資産に対して負債の割合が一定以下に抑えられている必要があります。 |
これらの要件は、会社設立時(新規設立登記直後)であれば「開始貸借対照表」、すでに稼働している既存会社で新たに派遣業へ参入する場合は「直近の決算書(貸借対照表)」によって審査されます。
既存会社で赤字や債務超過がある場合は、増資や役員借入金の債務免除などを行わなければ要件を満たせないため注意が必要です。
3.2 設立手続きやライセンス取得にかかる実費
人材派遣会社を立ち上げるためには、前述した「基準資産額(現預金1,500万円以上)」とは別に、法人設立の登記費用や、国に支払うライセンス(派遣事業許可)の取得費用、事務所の契約費用といった具体的な初期費用(実費)が別途発生します。
3.2.1 法人設立と派遣許可申請にかかる主な実費一覧
株式会社を設立し、派遣事業の許可を得るまでに必要となる代表的な法定費用と実費は以下の通りです。
| 区分 | 項目の名称 | 目安となる実費額 | 費用の概要 |
|---|---|---|---|
| 株式会社設立費用 | 定款認証手数料 | 約30,000円〜50,000円 | 公証役場で定款の認証を受ける際に支払う手数料です(資本金額により変動)。 |
| 定款貼付印紙代 | 40,000円 | 紙の定款の場合に必要です。電子定款を利用した場合は0円になります。 | |
| 登録免許税 | 150,000円〜 | 法務局に登記申請する際に支払う国税です。資本金の1,000分の7(これに満たない場合は一律15万円)となります。 | |
| 派遣事業許可申請費用 | 登録免許税 | 120,000円 | 派遣許可申請時に国に納める税金です。1件の申請につき定額で発生します。 |
| 収入印紙代 | 120,000円〜 | 許可手数料として支払います。1事業所あたり12万円で、事業所が追加されるごとに5万5,000円が加算されます。 | |
| その他必須費用 | 派遣元責任者講習受講料 | 約6,000円〜10,000円 | 選任予定の派遣元責任者が事前に受講する講習の受講費用です(1名分)。 |
3.2.2 事務所確保と運転資金のシミュレーション
上記の法定費用に加えて、派遣業の許可要件(20平方メートル以上の広さなど)を満たす事務所の賃貸契約初期費用(敷金・保証金、仲介手数料、前家賃など)として、約50万〜150万円程度が最低限必要になります。
さらに、PCや複合機、派遣管理用システムの導入、求人広告費などの事業準備資金が必要です。
これらを総合すると、派遣事業の許可要件である2,000万円の基準資産額を維持しつつ、安全に事業をスタートさせるためには、自己資金として総額2,200万円〜2,500万円程度を手元に用意しておくことが現実的な設立資金計画となります。
4. 人材派遣会社を設立する手順と流れ

人材派遣会社を立ち上げて実際に事業を開始するまでには、大きく分けて「法人の設立」と「労働者派遣事業の許可申請」という2つの高いハードルを越える必要があります。
これらは並行して準備を進める部分もあり、全体像を把握していないとスケジュールが大幅に後ろ倒しになってしまいます。
ここでは、会社設立から事業開始までの具体的なステップを時系列で詳しく解説します。
4.1 株式会社などの法人設立手続き
労働者派遣事業の許可を取得するためには、個人事業主ではなく法人格を持っていることが実務上強く推奨されます(個人でも申請は可能ですが、資産要件の維持や社会的信用度の観点から、大半の事業者が法人を選択します)。
まずは土台となる法人設立の手続きを進めます。
4.1.1 ステップ1:定款の作成と「目的」の記載
会社の憲法とも呼ばれる「定款(ていかん)」を作成します。
ここで最も注意すべきなのは、事業目的に「労働者派遣事業」または「労働者派遣法に基づく一般労働者派遣事業」と明確に記載することです。
この文言が抜けていると、後の労働局での許可申請が受け付けられず、定款の変更手続き(登録免許税の再支払いなど)が発生してしまいます。
4.1.2 ステップ2:資本金の払い込みと登記申請
定款の発起人名義の口座に、基準資産額を満たすための資本金を払い込みます。
その後、法務局へ設立登記の申請を行います。登記申請日が「会社設立日」となります。
登記が完了したら、労働局への申請書類に添付するため、「履歴事項全部証明書(商業登記簿謄本)」と「法人の印鑑証明書」を複数部取得しておきます。
4.2 労働局への派遣事業許可申請
法人の登記が完了したら、いよいよ本番である労働者派遣事業の許可申請手続きに移ります。
申請先は、本店の所在地を管轄する都道府県労働局(需給調整事業部など)です。
4.2.1 ステップ1:必要書類の収集と作成
許可申請に必要な書類は多岐にわたり、厳格なチェックが行われます。
主な提出書類は以下の通りです。
| 区分 | 主な必要書類・添付書類 | 留意点 |
|---|---|---|
| 申請書関係 | 労働者派遣事業許可申請書、労働者派遣事業計画書 | 所定の様式に正確な事業計画を記載します。 |
| 法人関係書類 | 定款の写し、履歴事項全部証明書 | 事業目的に「労働者派遣事業」の記載が必要です。 |
| 財務関係書類 | 貸借対照表、損益計算書、納税証明書 | 基準資産額(2,000万円×店舗数)を満たしている証明です。 |
| 事務所関係書類 | 建物の賃貸借契約書、間取り図(レイアウト図) | 事業専用スペースが確保されているか確認されます。 |
| 派遣元責任者関係 | 住民票の写し、履歴書、派遣元責任者講習受講書(写し) | 受講から3年以内の受講証明書が必要です。 |
4.2.2 ステップ2:労働局への書類提出と受理
作成した書類一式を管轄の労働局に持参して提出します。
窓口では、要件をすべて満たしているか細かく審査されます。
書類に不備や不足があると、その場で受理されず持ち帰りとなるため、事前に労働局の担当窓口に予約を入れ、下書きの段階で事前相談を行っておくことがスムーズに受理されるための最大のポイントです。
4.2.3 ステップ3:労働局による現地調査(実地審査)
書類が受理された後、労働局の担当官が実際に申請された事務所へ訪問し、現地調査を行います。
この調査では、「申請書に添付したレイアウト図通りに事務所が機能しているか」「個人情報や秘密保持を守るための鍵付きキャビネットが設置されているか」「独立した面談スペースがあるか」などが厳格にチェックされます。
実地審査をクリアして初めて、厚生労働省への進達が行われます。
4.3 許可証の交付と事業開始までのスケジュール
労働局での審査および厚生労働省での最終審査を通過すると、正式に派遣事業の許可が下ります。
申請から実際に事業を開始できるまでには一定の期間がかかります。
4.3.1 申請から許可交付までの標準処理期間
労働者派遣事業の許可申請から許可証が交付されるまでには、通常2ヶ月から3ヶ月程度の期間を要します。
例えば、10月1日付での事業開始(許可取得)を目指す場合、逆算して7月上旬から中旬までには労働局へ正式な申請書を受理させておく必要があります。
以下に、標準的なスケジュールモデルを示します。
| 時期(目安) | 実施する手続き・プロセス | 具体的なアクション内容 |
|---|---|---|
| 1ヶ月目・前半 | 法人設立・要件整備 | 定款作成、登記申請、派遣元責任者講習の受講、事務所契約の完了。 |
| 1ヶ月目・後半 | 労働局への事前相談・申請 | 必要書類の作成と労働局での事前確認を経て、正式に申請書を提出・受理。 |
| 2ヶ月目 | 審査・現地調査 | 労働局の担当官による事務所の実地審査、および行政内部での審査。 |
| 3ヶ月目・末日 | 許可証の交付 | 労働局にて「労働者派遣事業許可証」が交付されます。 |
| 4ヶ月目・1日 | 事業開始 | 派遣労働者の登録受付や、派遣先企業への営業活動、実際の派遣開始が可能。 |
許可証が手元に届くまでは、労働者派遣契約の締結や実際の派遣就業、派遣を前提とした求人広告の掲載などは一切行えません。
この期間中にフライングして営業活動や契約行為を行ってしまうと、無許可営業とみなされ処罰の対象となるリスクがあるため、スケジュールには十分な余裕を持ち、コンプライアンスを遵守した準備を進めることが極めて重要です。
5. 人材派遣会社の設立で失敗しないための注意点

人材派遣業は、一度許可を取得すれば安定した収益を期待できるビジネスモデルですが、事前の準備不足や業界特有のルールへの理解不足から、設立初期に挫折してしまうケースが少なくありません。
他業種とは異なる「ヒト」を扱うビジネスだからこそ、以下の注意点を徹底的に頭に入れておく必要があります。
5.1 自己資金の確保と資金繰り対策
人材派遣会社の設立において、最も多くの経営者が直面する壁が「キャッシュフロー(資金繰り)」の問題です。
派遣業は、売上の入金よりも先に人件費の支払いが発生する「先行投資型」のビジネスモデルであるため、自己資金の綿密なシミュレーションが欠かせません。
5.1.1 売上入金と給与支払いのタイムラグ
派遣契約において、派遣先企業からの派遣料金の入金は「月末締め・翌月末払い(30日後)」や「翌々月払い(60日後)」が一般的です。
一方で、雇用している派遣労働者への給与支払いは「月末締め・翌月15日払い」や「翌月25日払い」など、入金よりも先、あるいはほぼ同時に発生します。
つまり、派遣先からお金が振り込まれる前に、自社で派遣労働者への給与を立て替えなければならない期間が必ず発生します。
このタイムラグを考慮せず、ギリギリの資金でスタートすると、売上が伸びているにもかかわらず黒字倒産に陥るリスクがあります。
5.1.2 運転資金のシミュレーションと必要額の目安
設立初期に必要な運転資金を算出する際は、最低でも「派遣労働者の給与3ヶ月分」と同等のキャッシュを手元に確保しておく必要があります。
具体的にどの程度の資金が必要になるのか、以下の表でシミュレーションを確認してみましょう。
| 項目 | 条件・計算式 | 必要な資金額の目安 |
|---|---|---|
| 派遣労働者の給与(1人あたり) | 時給1,500円 × 1日8時間 × 月20日稼働 | 240,000円 / 月 |
| 法定福利費(会社負担分) | 健康保険、厚生年金、雇用保険、労災保険など(約15%) | 36,000円 / 月 |
| 1人あたりの月間必要コスト | 給与 + 法定福利費 | 276,000円 / 月 |
| 5人を派遣する場合の3ヶ月分運転資金 | 276,000円 × 5人 × 3ヶ月 | 4,140,000円 |
このように、わずか5人の派遣労働者を稼働させるだけでも、最初の3ヶ月間で約414万円のキャッシュアウトが先行します。
これに加えて、自社のオフィスの家賃や、求人広告費、内勤スタッフの人件費なども発生するため、融資の活用や自己資金の余裕を持った調達が不可欠です。
5.2 法改正やルール変更への対応
労働者派遣法は、労働者の権利保護や雇用の安定を目的に、数ある法律の中でも特に頻繁に法改正が行われる法律です。
過去のルールに基づいた運用のまま事業を続けていると、知らぬ間に違法行為となり、行政処分や許可取り消しに追い込まれるリスクがあります。
5.2.1 同一労働同一賃金への厳格な対応
近年の大改正である「同一労働同一賃金」制度への対応は、現在も派遣会社にとって最重要課題の一つです。派遣労働者と派遣先の正社員との間で、不合理な待遇格差を設けることは禁止されています。
派遣会社は以下のいずれかの方式を選択し、適切に運用しなければなりません。
一つは、派遣先の正社員と直接比較して待遇を決める「派遣先均等・均衡方式」、もう一つは、同種の業務に従事する一般労働者の平均賃金と同等以上の賃金を支払う「労使協定方式」です。
実務上は、多くの派遣会社が「労使協定方式」を採用していますが、この協定書は毎年更新し、労働局へ提出する必要があります。
基準値となる「一般基本給・賞与等」の数値も毎年厚生労働省から発表されるため、常に最新情報をキャッチアップし、賃金制度をアップデートし続けなければなりません。
5.2.2 コンプライアンス遵守と行政処分のリスク
労働局による定期的な立ち入り調査(需給調整事業監査)への対策も重要です。
帳簿類の整備状況や、契約書の記載内容、キャリアアップ支援の実施状況などが厳しくチェックされます。
特に以下の違反は、業務停止命令や派遣事業許可の取り消しといった重いペナルティに直結するため、日頃からのコンプライアンス意識が強く求められます。
- 派遣労働者に対する「労働条件通知書兼派遣労働先通知書」の交付漏れ
- 派遣先企業との「労働者派遣契約書」の不備や、個別契約の期間制限違反
- 二重派遣(他社から受け入れた派遣労働者をさらに別の企業へ派遣すること)の容認
- 「専ら派遣」(特定のグループ企業等だけに限定して派遣を行うこと)の禁止規定への抵触
人材派遣業を健全に継続するためには、設立時だけでなく、社労士などの専門家と顧問契約を結ぶなどして、法改正に即座に対応できる体制を整えておくことが、最大の失敗回避策となります。
6. まとめ
人材派遣会社の設立を成功させるには、厳格な許可要件のクリアと綿密な資金計画が不可欠です。
特に「基準資産額2,000万円以上」という資産要件は、設立時の最大のハードルとなるため、資本金と自己資金の準備を確実に進める必要があります。
また、派遣元責任者の選任や事務所要件の確保、労働局への申請手続きには数ヶ月の期間を要します。
2026年の最新ルールや法改正を常に意識し、スケジュールに余裕を持って手続きを進めることが、スムーズな事業開始と安定した企業経営を実現するための確実な近道です。
