個人事業主として開業する際、「消費税の免除を2年間受けられるのはどんな条件か」「手続きや注意点は?」と悩む方も多いでしょう。
本記事では、消費税免除2年の仕組み・要件・準備すべき書類までを徹底解説。
この記事を読めば、制度の利用方法と最新動向が丸ごとわかります。
消費税免除制度の概要
個人事業主が新たに開業した場合、多くのケースで最初の2年間は消費税の納税義務が免除される制度があります。
これは国税庁が規定する消費税法に基づく「新規開業の免税点制度」によるものです。
この章では、消費税免除の仕組みと基礎をわかりやすく解説します。
消費税免除のメリット
消費税免除の最大のメリットは、開業から2年間、消費税の納税資金の負担がないことです。
これにより、事業立ち上げの初期コストを抑えられ、資金繰りが楽になります。
また、消費税の申告書作成などの事務負担が軽減される点も大きなメリットです。
メリット | 具体的な内容 |
---|---|
納税不要 | 売上に対する消費税の納税義務が発生しません。 |
資金繰りの安定 | 消費税納付分の資金を事業拡大や運転資金に回せます。 |
事務負担の軽減 | 消費税関連の帳簿作成や申告手続きが簡易に。 |
消費税免除のデメリット
一方で、消費税免除には注意すべきデメリットも存在します。
特に、取引先がインボイス制度(適格請求書等保存方式)を利用している場合、自分が免税事業者であると、発注先から不利益を受けたり、取引量が減少するリスクがあります。
また、自社で支払った仕入れや経費にかかった消費税を控除(仕入税額控除)できないため、課税事業者と比べてコストメリットを感じづらくなるケースもあります。
デメリット | 具体的な内容 |
---|---|
インボイスの発行不可 | 適格請求書発行事業者とならないため、BtoB取引で不利になる場合があります。 |
仕入税額控除不可 | 仕入や経費にかかる消費税を差し引けません。 |
取引先からの敬遠 | 取引条件によっては免税事業者との契約を避ける企業も存在します。 |
このように、消費税免除制度は開業初期の個人事業主にとって大きなメリットがありますが、今後の事業運営や顧客との取引関係にも影響を与える可能性があるため、制度の内容をしっかり理解し、自社の状況に合った判断が重要です。
個人事業主が消費税免除を2年受けられる要件

基準期間の売上高
個人事業主が開業した場合、原則として開業した年とその翌年は消費税の納税義務が免除されます。
これは、「基準期間における課税売上高」が1,000万円以下である場合に適用されます。
開業した年とその翌年については、基準期間が存在しないため、売上高にかかわらず免除が認められます。
ただし、例外があるため次項も確認しましょう。
基準期間とは?
基準期間とは、個人事業主の場合、原則として「2年前」の1月1日から12月31日までの1年間を指します。
たとえば、令和6年(2024年)の消費税の課税事業者に該当するかどうかを判断する際は、令和4年(2022年)の売上高が基準期間となります。
しかし、開業初年度や2年目はまだ基準期間が存在しないため「無条件で免税」となります。
売上高の計算方法
基準期間の売上高には、消費税が課せられる対象となる取引のすべてが含まれます。
具体的には以下の計算方法となります。
売上に含める取引 | 売上に含めない取引 |
---|---|
商品販売収入、サービス提供収入(日本国内における事業収入) | 非課税取引例:土地の譲渡、家賃収入(住宅用)、給与収入など |
なお、売上高の計算には「税込方式」と「税抜方式」のどちらでも可能ですが、原則として日々の帳簿記載方法に合わせて計算します。
特定期間の売上高
基準期間の売上高が1,000万円以下でも、特定期間における課税売上高が1,000万円超となった場合には、翌年には消費税課税事業者になる可能性があります。
免税事業者として2年継続するには、この特定期間の売上もチェックが必要です。
特定期間とは?
特定期間は、その年の前年の1月1日から6月30日までの期間を指します。
例えば、令和6年(2024年)の課税事業者に該当するかどうかは、令和5年(2023年)の1月1日から6月30日までの売上が問われます。
特定期間の売上高の計算方法
特定期間の課税売上高も、基準期間と同様に消費税の課税対象となる取引すべてが含まれます。
また、給与支払額が1,000万円を超えた場合も、消費税の納税義務が発生するため注意しましょう。
項目 | 判定基準 |
---|---|
特定期間の課税売上高 | 1,000万円を超える場合、翌年から課税事業者となる |
特定期間の給与支払額 | 1,000万円を超える場合、翌年から課税事業者となる |
したがって、基準期間がない開業1年目・2年目で「特定期間の課税売上高」または「給与支払額」が1,000万円を超えなければ、原則として2年間は消費税の免除を受けることができます。
消費税免除を受けるための手続き

個人事業主が消費税免除(免税事業者)を受けるためには、開業時や確定申告時に特定の手続きを正確に進める必要があります。
ここでは、それぞれのステップごとに必要な書類やポイントを丁寧に解説します。
開業届出時
個人事業主として事業を開始する際は、「個人事業の開業・廃業等届出書」を税務署に提出します。
事業開始初年度と翌年は、基本的に売上高や給与支払額による例外を除き自動的に消費税の免税事業者となります。
つまり、開業時に個別で消費税免除の申請は不要ですが、提出する書類に不備がないよう注意しましょう。
提出書類名 | 提出時期 | 提出先 |
---|---|---|
個人事業の開業・廃業等届出書 | 事業開始から1か月以内 | 所轄税務署 |
なお、青色申告を希望する場合は「青色申告承認申請書」も併せて提出する必要があります。
確定申告時
個人事業主は、年に1回所得税の確定申告を行います。
確定申告の内容によって、免税事業者の条件である売上高1,000万円以下かどうかが判定されるため、帳簿付けや収支管理は正確に行いましょう。
青色申告の場合
青色申告を選択している場合は、複式簿記による詳細な帳簿管理が求められます。
青色申告特別控除や赤字の繰り越し等のメリットも享受できるため、消費税免除の要件を満たしつつ、将来的な消費税課税事業者への移行にも備えやすくなります。
消費税の申告・納税義務は、原則として発生しませんが、基準期間や特定期間の売上高に注意しましょう。
主な必要書類 | 提出時期 | 備考 |
---|---|---|
所得税の青色申告決算書 | 毎年3月15日まで | 消費税申告書は不要(免税期間中) |
確定申告書B | 毎年3月15日まで | 所轄税務署に提出 |
白色申告の場合
白色申告の場合は単式簿記で収支計算が可能です。
消費税に関する手続きは青色申告と同様ですが、帳簿の保存義務や税務調査時への対応、将来の負担などを考慮すると青色申告に切り替える方が有利になる場合もあります。
主な必要書類 | 提出時期 | 備考 |
---|---|---|
収支内訳書 | 毎年3月15日まで | 消費税申告書は不要(免税期間中) |
確定申告書B | 毎年3月15日まで | 所轄税務署に提出 |
消費税免除の期間は、基準期間(通常は2年前)の売上高が1,000万円以下であるかどうかが引き続き要件となりますので、正確な収支管理と記帳を怠らないようにしましょう。
消費税免除に関する注意点

免税事業者と課税事業者の違い
免税事業者とは、消費税法上で一定の条件を満たすことで、消費税の納税義務が免除されている個人事業主や法人を指します。
一方で、課税事業者は消費税を納税する義務がある事業者です。
それぞれの主な違いは以下の通りです。
区分 | 消費税納税義務 | インボイス発行可否 | 取引先への影響 |
---|---|---|---|
免税事業者 | なし(納税不要) | 発行不可(適格請求書なし) | 仕入税額控除を受けられないケースあり |
課税事業者 | あり(消費税を納付) | 発行可能(インボイス制度に対応) | 取引先が仕入税額控除可能 |
まだインボイス制度への対応が進んでいる現在、免税事業者であり続ける場合は、一部の事業者との取引の際に不利になる場合があるため注意が必要です。
特に法人や事業規模の大きい取引先との契約では、課税事業者への転換を求められるケースが増えています。
消費税免除期間終了後
消費税の免除は、開業から原則2年間限定です。
2年を経過した後は、基準期間または特定期間の売上高等により、自動的に課税事業者となる可能性があります。
免除期間終了後には以下の点に注意が必要です。
- 消費税の納付義務が生じるため、売上に対する消費税額の把握、請求書・領収書への記載事項の確認、消費税区分の管理が不可欠となります。
- 売上規模や収入によって消費税の額が大きくなる場合予想外の納税資金負担が発生することもあるため、事前の資金管理や納税資金の積立が重要です。
- 消費税課税事業者となれば「消費税課税事業者届出書」の提出が必要です。提出期限や手続き方法に関し、国税庁の指導に従いましょう。
消費税免税・課税の切り替え時期を正確に把握し、記帳や申告の準備を遅れずに進めることが、余計なトラブルや納税漏れ防止につながります。
消費税の納税義務が生じる場合
基準期間(開業2年前または直前の年)の課税売上高が1,000万円を超えた場合、翌々年からは課税事業者となり消費税の納税義務が生じます。
また、特定期間(前年1月1日から6月30日まで)の課税売上高や給与等支払額が1,000万円を超える場合も、翌年から課税事業者となります。
発生要件 | 消費税の納税開始時期 | 注意点 |
---|---|---|
基準期間の売上高が1,000万円超 | 翌々事業年度から | 売上が急に伸びた年は特に注意 |
特定期間の売上高・給与支払合計が1,000万円超 | 翌事業年度から | 従業員等の増加も影響、売上以外にも意識を |
免税事業者でいたつもりでも、事業規模の拡大や取扱売上高次第で、早期に消費税課税事業者へ切り替わる場合があります。
定期的に売上や給与支払額を確認し、想定外の納税義務発生を防ぐことが大切です。
また、廃業や法人化(法人成り)の場合にも個別で判定基準が異なるため、税理士などの専門家に早めに相談することをおすすめします。
消費税免除2年に関するよくある質問

Q. 免税事業者でもインボイス制度に対応する必要がありますか?
2023年10月から開始されたインボイス制度により、適格請求書(インボイス)の発行が求められる場面が増えています。
免税事業者は原則としてインボイスを発行できませんが、取引先からインボイス発行を求められる場合は「適格請求書発行事業者」に登録し、課税事業者となる必要があります。
インボイス制度への未対応は、BtoB(法人間取引)で今後取引縮小や契約打ち切りのリスクもあるため注意が必要です。
事業者区分 | インボイス発行 | 消費税の納税義務 |
---|---|---|
免税事業者 | ✕(発行不可) | なし(2年間) |
登録課税事業者 | ○(発行可) | あり |
このように、インボイス制度対応は事業モデルや取引状況によって判断する必要があります。
特にBtoB事業者の場合、消費税免除の2年間の間でも対応方針を早めに決めておくと安心です。
Q. 消費税免除の2年間は、請求書に消費税を記載してはいけないのですか?
免税事業者(消費税免除期間中)でも請求書に消費税相当額を分けて表示すること自体は可能です。
しかし、実際には取引先とのトラブル防止の観点で、免税事業者である旨や消費税を含めていない旨の明記が推奨されます。
免税事業者が「消費税を預かっていない」ことを取引先にも理解してもらうことが大切です。
また、インボイス(適格請求書)を発行する義務はありません。
請求書表記 | 注意点 |
---|---|
「税込」や「消費税額」を記載 | 問題なし。ただし、免税事業者であることを明記すると誤解防止につながる。 |
インボイス形式 | 免税事業者はインボイス発行不可。うっかり適格請求書と誤認される記載には要注意。 |
不明点がある場合は、国税庁の公式ウェブサイトや税理士に相談されることをおすすめします。
Q. 2年経過後に消費税の納税義務が生じるのは、いつからですか?
個人事業主が新規開業した場合、原則として開業 1 年目と 2 年目の 2年間は免税事業者となり消費税の納税義務がありません。
ただし、以下の条件を満たした場合は3年目から納税義務が発生します。
消費税の納税義務が生じるタイミングの整理を以下の表でまとめます。
年次 | 区分 | 消費税納税義務 |
---|---|---|
開業1年目 | 基準期間該当なし | なし(免税) |
開業2年目 | 基準期間該当なし | なし(免税) |
開業3年目 | 1年目が基準期間となる | 1年目の売上高が1,000万円以下なら免税、 超えていれば課税 |
つまり、3年目の事業年度から消費税の納税義務判定がスタートし、実際に「1年目の課税売上高が1,000万円超」であれば3年目から納税義務が発生します。
売上見通しや制度改正(特定期間判定など)にも注意しましょう。
まとめ
個人事業主が消費税免除を2年間受けるためには、基準期間や特定期間の売上高など要件を正確に把握し、必要な手続きを確実に行うことが重要です。
要件を満たせば消費税負担が軽減され資金繰りが楽になる反面、インボイス制度への対応や免除期間終了後の納税義務には注意が必要です。
制度の仕組みを理解し、将来の納税に備えて計画的に事業を進めましょう。