「合同会社は無限責任なの?」と疑問に思っていませんか?
合同会社は設立の容易さから人気を集めていますが、無限責任という言葉に不安を感じる方もいるでしょう。
この記事では、合同会社の無限責任について、その定義や範囲、出資額以上の責任を負うケース、具体的な例などをわかりやすく解説します。
債務超過や違法行為、社員の不正行為など、どのような場合に無限責任が発生するのかを理解することで、リスクを正しく認識できます。
さらに、適切な契約書の締結、保険への加入、事業計画の策定、財務状況の確認、コンプライアンスの徹底など、無限責任のリスクを軽減するための具体的な対策もご紹介します。
この記事を読むことで、合同会社の無限責任に関する不安を解消し、安心して事業を始めるための準備ができるでしょう。
また、有限責任社員の役割についても触れることで、合同会社の仕組みへの理解を深めることができます。
よくある誤解にも触れているので、誤った情報に惑わされることなく、正しい知識を身につけることができます。
合同会社の基礎知識
合同会社を設立・運営する上で、その基本的な知識を理解することは非常に重要です。
この章では、合同会社とは何か、株式会社との違いは何なのかを詳しく解説します。
合同会社とは
合同会社とは、2006年5月1日に施行された会社法によって新しく導入された会社形態です。
出資者である社員全員が有限責任社員である株式会社とは異なり、合同会社では社員全員が無限責任社員となることも、一部の社員が有限責任社員となることも可能です。
出資額の大小に関わらず、社員は会社の経営に平等に参加する権利を持ちます。
意思決定は社員の合議によって行われ、柔軟な組織運営が可能です。
また、設立手続きが比較的簡便であり、株式会社に比べて費用を抑えることができる点もメリットとして挙げられます。
合同会社と株式会社の違い
合同会社と株式会社は、どちらも会社という組織形態ではありますが、その性質や運営方法にはいくつかの重要な違いがあります。
以下の表で主な違いを比較してみましょう。
項目 | 合同会社 | 株式会社 |
---|---|---|
社員の責任 | 無限責任社員または有限責任社員 | 有限責任社員 |
意思決定 | 社員の合議による | 株主総会、取締役会 |
設立手続き | 比較的簡便 | 比較的複雑 |
費用 | 比較的安価 | 比較的高価 |
資金調達 | 株式発行による資金調達は不可 | 株式発行による資金調達が可能 |
社会的信用 | 株式会社に比べて低い場合もある | 一般的に高い |
定款 | 作成必須 | 作成必須 |
登記 | 設立登記が必要 | 設立登記が必要 |
組織の柔軟性 | 高い | 低い |
これらの違いを理解した上で、事業内容や規模、将来の展望などを考慮し、自身に最適な会社形態を選択することが重要です。
例えば、少人数で事業を始めたい場合や、柔軟な経営体制を築きたい場合には合同会社が適していると言えるでしょう。
一方、大規模な資金調達が必要な場合や、社会的信用を高めたい場合には株式会社の方が有利です。
それぞれのメリット・デメリットをしっかりと比較検討することが重要です。
合同会社の無限責任とは?

合同会社の無限責任とは、端的に言えば、会社の債務に対して、社員が自己の財産で責任を負うことを意味します。
株式会社では、株主は出資額の範囲内でしか責任を負いませんが(有限責任)、合同会社では、原則として社員は出資額を超えて、私財を投じてでも会社の債務を弁済する義務があります。
これは、合同会社が「人」を中心とした組織形態であり、社員の連帯意識と責任感によって事業を運営していくという考え方に基づいているためです。
そのため、事業が成功すれば大きなリターンを得られる可能性がありますが、一方で、事業が失敗した場合には、大きなリスクを負うことになります。
この無限責任は、債権者にとっては、会社が債務を履行できない場合でも、社員の財産から回収できるという安心感につながります。
無限責任の定義と範囲
無限責任とは、法律上、「出資の額に関わらず、会社の債務について全額を負担する責任」と定義されています(会社法第575条)。
つまり、会社の負債が社員の出資額を上回った場合でも、社員は自己の財産でその差額を支払わなければなりません。
この責任は、会社の財産だけでなく、社員個人の財産にも及ぶため、注意が必要です。
無限責任の範囲は、会社のすべての債務に及びます。
具体的には、金融機関からの借入金、取引先への買掛金、従業員への給与、税金など、会社が負うあらゆる債務が対象となります。
また、債務が発生した時期が、社員が在籍していた時期かどうかは関係ありません。退社後であっても、在籍中に発生した債務については責任を負う可能性があります。
出資額以上の責任を負うケース
以下は、出資額以上の責任を負う代表的なケースです。
債務超過の場合
事業がうまくいかず、会社の負債が資産を上回る債務超過の状態になった場合、社員は自己の財産で不足分を補填する義務が生じます。
例えば、会社の負債総額が1億円、資産総額が5,000万円の場合、5,000万円の不足分を社員が負担しなければなりません。
出資額が少額であっても、多額の負債を負担する可能性があるため、注意が必要です。
違法行為の場合
会社が違法行為を行った場合、その責任は会社だけでなく、社員にも及ぶ可能性があります。
例えば、会社が環境汚染を引き起こした場合、社員も連帯して損害賠償責任を負う可能性があります。
これは、社員が会社の意思決定に関与していると考えられるためです。
社員の不正行為の場合
社員が会社の業務に関して不正行為を行った場合、その責任は当然ながら当該社員にありますが、場合によっては他の社員も責任を問われる可能性があります。
特に、代表社員や業務執行社員は、監督責任を問われるケースがあります。
例えば、ある社員が会社の資金を横領した場合、他の社員は、その社員の監督を怠ったとして責任を問われる可能性があります。
ケース | 責任の範囲 | 具体例 |
---|---|---|
債務超過 | 不足分の補填 | 負債1億円、資産5,000万円の場合、5,000万円の不足分を社員が負担 |
違法行為 | 損害賠償責任 | 会社が環境汚染を引き起こした場合、社員も連帯責任を負う可能性 |
社員の不正行為 | 監督責任 | 社員の横領に対し、代表社員や業務執行社員が監督責任を問われる可能性 |
これらのケース以外にも、予期せぬ事態によって無限責任を負う可能性は常に存在します。
合同会社を設立する際には、無限責任のリスクを十分に理解し、適切な対策を講じることが重要です。
後述する「無限責任のリスクを軽減するための対策」を参考に、リスク管理を徹底しましょう。
合同会社で無限責任を負う具体的な例

合同会社の社員は、事業運営において発生した債務に対して無限責任を負う可能性があります。
以下に具体的な例を挙げ、債務の種類や発生状況を詳しく解説します。
事業失敗による借金
合同会社が事業に失敗し、多額の負債を抱えた場合、社員は出資額を超えて、私財でその借金を返済する義務が生じる可能性があります。
例えば、飲食店経営の合同会社がコロナ禍の影響で倒産し、1,000万円の借金が残った場合、社員は自身の預貯金や不動産などを売却して返済にあたらなければならないかもしれません。
出資額が100万円でも、1,000万円の借金を返済する義務が生じる可能性があるのです。
取引先への損害賠償
合同会社が取引先に対して損害を与え、損害賠償請求を受けた場合も、社員は無限責任を負う可能性があります。
例えば、製造業の合同会社が不良品を出荷し、取引先に多大な損害を与えた場合、社員は出資額に関わらず、損害賠償金全額を支払う義務を負う可能性があります。
契約内容によっては、損害賠償額が数千万円に上ることもあり、社員の生活に大きな影響を与える可能性があります。
従業員への未払い賃金
合同会社が従業員への賃金を支払えない場合、社員は未払い賃金の支払責任を負う可能性があります。
たとえ会社に資金がなくても、社員は私財を処分してでも賃金を支払わなければならない場合があります。
これは、従業員の生活を守るための重要な法的保護です。
未払い賃金の総額によっては、社員に大きな負担がかかる可能性があります。
その他の債務
上記以外にも、以下のような債務についても社員が無限責任を負うケースがあります。
債務の種類 | 具体的な例 | 解説 |
---|---|---|
税金滞納 | 法人税、消費税、住民税などの滞納 | 会社が税金を滞納した場合、社員は私財で納税する義務を負う可能性があります。税務署は、会社だけでなく社員の財産も差し押さえる可能性があります。 |
建物賃貸借契約の解除に伴う違約金 | 事務所や店舗の賃貸借契約を中途解約した場合の違約金 | 契約内容によっては高額な違約金が発生する可能性があり、社員がその支払責任を負うことがあります。 |
金融機関からの借入金 | 事業資金として銀行などから借入した資金 | 連帯保証人になっている場合、会社が返済できなくなった際に社員が返済義務を負います。保証人になっていない場合でも、債権者が社員に請求する可能性があります。 |
これらの例はあくまで一部であり、事業内容や契約内容、発生状況によって無限責任の範囲や程度は異なります。
合同会社を設立する際には、無限責任のリスクを十分に理解し、適切な対策を講じることが重要です。
具体的には、事業計画の綿密な策定、適切な契約書の締結、保険への加入などを検討する必要があります。
無限責任のリスクを軽減するための対策

合同会社における無限責任のリスクを軽減するために、様々な対策を講じることが重要です。
具体的な対策方法としては、以下のようなものがあります。
適切な契約書の締結
事業活動においては、取引先、顧客、従業員など様々な関係者との契約が発生します。
契約内容を明確化し、責任範囲を明確に定めた契約書を締結することで、後々のトラブルや責任の所在に関する争いを未然に防ぐことができます。
特に、取引基本契約書、業務委託契約書、雇用契約書などは重要です。
専門家である弁護士に相談し、契約書の内容を確認してもらうことも有効な手段です。
保険への加入
事業活動に伴う様々なリスクに備えて、適切な保険に加入することも重要です。
例えば、賠償責任保険、火災保険、労災保険などは、予期せぬ事故やトラブル発生時に、経済的な負担を軽減する役割を果たします。
事業内容や規模に応じて、必要な保険の種類や補償額を検討し、専門家である保険代理店に相談することで、最適な保険プランを選択することができます。
事業計画の綿密な策定
事業計画を綿密に策定し、実現可能な目標を設定することで、無謀な投資や過大な負債を抱えるリスクを軽減できます。
事業計画には、市場分析、競合分析、収支計画、資金調達計画などを含めるべきです。
また、事業計画は定期的に見直し、状況の変化に応じて柔軟に対応することも重要です。
公的機関である日本政策金融公庫などが提供する創業支援サービスを利用し、専門家のアドバイスを受けることも有効です。
定期的な財務状況の確認
会社の財務状況を定期的に確認し、健全な経営状態を維持することも重要です。
具体的には、月次決算、年次決算を行い、損益計算書、貸借対照表などを分析することで、経営状況を把握し、早期に問題点や改善点を発見することができます。
会計ソフトを活用したり、税理士などの専門家に相談することで、効率的かつ正確な財務管理を行うことができます。
コンプライアンスの徹底
法令遵守(コンプライアンス)を徹底し、違法行為や不正行為を未然に防ぐことも重要です。
社員教育を定期的に実施し、コンプライアンス意識を高めることで、企業の社会的責任を果たし、信用リスクを低減することができます。
業界団体が提供するコンプライアンスに関する情報や、弁護士などの専門家によるコンサルティングサービスを活用することも有効です。
有限責任社員の活用
合同会社では、有限責任社員を登記することで、無限責任社員の責任範囲を限定することができます。
有限責任社員は、出資額を限度として責任を負うため、無限責任社員のリスク軽減に繋がります。
ただし、有限責任社員は業務執行権を持たないため、役割分担を明確にする必要があります。
対策 | 内容 | メリット |
---|---|---|
適切な契約書の締結 | 取引先、顧客、従業員などとの契約内容を明確化し、責任範囲を明確に定めた契約書を締結する。 | 後々のトラブルや責任の所在に関する争いを未然に防ぐ。 |
保険への加入 | 事業活動に伴う様々なリスクに備えて、適切な保険に加入する。 | 予期せぬ事故やトラブル発生時に、経済的な負担を軽減する。 |
事業計画の綿密な策定 | 実現可能な目標を設定し、綿密な事業計画を策定する。 | 無謀な投資や過大な負債を抱えるリスクを軽減する。 |
定期的な財務状況の確認 | 月次決算、年次決算を行い、財務状況を定期的に確認する。 | 経営状況を把握し、早期に問題点や改善点を発見する。 |
コンプライアンスの徹底 | 法令遵守を徹底し、違法行為や不正行為を未然に防ぐ。 | 企業の社会的責任を果たし、信用リスクを低減する。 |
有限責任社員の活用 | 有限責任社員を登記し、無限責任社員の責任範囲を限定する。 | 無限責任社員のリスク軽減に繋がる。 |
合同会社における有限責任社員の役割

合同会社では、出資者全員が無限責任社員である必要はなく、有限責任社員を設けることも可能です。
有限責任社員は、その名の通り、出資額を限度として責任を負う社員です。
合同会社に有限責任社員が存在する場合、無限責任社員と有限責任社員の両方が存在するハイブリッド型の組織となります。
有限責任社員は、会社の経営には直接関与せず、出資によって事業を支援する役割を担います。
議決権は原則として持ちませんが、定款で定めることで議決権を与えることも可能です。
また、業務執行社員となることはできません。
有限責任社員のメリット・デメリット
有限責任社員のメリット
有限責任社員にとって最大のメリットは、出資額以上の責任を負う必要がない点です。
事業が失敗した場合でも、損失は出資額までに限定されます。
そのため、リスクを抑えて投資したい個人や企業にとって魅力的な選択肢となります。
有限責任社員のデメリット
有限責任社員は、経営への参加が制限されます。
議決権がない、または制限されている場合、会社の重要な意思決定に関与できません。
また、業務執行社員になれないため、事業運営に直接携わることはできません。
無限責任社員と有限責任社員の比較
項目 | 無限責任社員 | 有限責任社員 |
---|---|---|
責任の範囲 | 無限責任 | 有限責任(出資額まで) |
経営への参加 | 可能(業務執行社員になれる) | 制限あり(業務執行社員になれない) |
議決権 | 原則あり | 原則なし(定款で定めれば可能) |
リスク | 高 | 低 |
リターン | 高 | 低 |
有限責任社員の導入事例
有限責任社員制度は、ベンチャー企業への出資などで活用されています。
リスクを抑えて資金提供を行いたいエンジェル投資家やベンチャーキャピタルなどが、有限責任社員として出資するケースが見られます。
また、事業承継の際にも、後継者が無限責任社員となり、先代経営者が有限責任社員となることで、リスクを軽減しながら事業の引継ぎをスムーズに進めることができます。
有限責任社員制度を導入することで、多様な人材や資金を会社に取り込みやすくなります。
会社の状況や目的に合わせて、無限責任社員と有限責任社員の最適なバランスを検討することが重要です。
合同会社の無限責任に関するよくある誤解

合同会社の無限責任については、様々な誤解や憶測が飛び交っています。
この章では、よくある誤解を解消し、正しい理解を深めていただくことを目的としています。
無限責任社員は常に全財産を失う
無限責任社員は、会社の債務に対して出資額を超えて責任を負う可能性がありますが、必ずしも全財産を失うわけではありません。
債務の総額、社員の個人的な資産状況、そして他の社員の責任負担の割合などによって、最終的な責任範囲は異なります。
また、債権者との交渉や法的整理手続きによって、責任範囲を限定できる場合もあります。
小さな会社だから無限責任のリスクは低い
会社の規模に関わらず、無限責任のリスクは存在します。
事業規模が小さくても、大きな損失が発生する可能性はありますし、取引先が大企業であれば、損害賠償請求額も高額になる可能性があります。
事業規模の大小ではなく、事業内容やリスク管理の体制が重要です。
無限責任社員は借金ができなくなる
無限責任社員だからといって、個人が借金ができなくなるわけではありません。
ただし、会社の経営状況が悪化している場合、個人の信用情報にも影響を与える可能性があります。
金融機関は、融資の審査において、会社の経営状況だけでなく、無限責任社員の個人資産や信用情報も考慮します。
無限責任は株式会社よりも不利
合同会社形態の無限責任は、株式会社に比べて不利な点として捉えられることが多いですが、必ずしもそうではありません。
無限責任は、経営に対する責任感を高め、事業の健全な発展を促す側面もあります。
また、対外的な信用力向上に繋がる場合もあります。
株式会社よりも意思決定が迅速に行える点もメリットの一つです。
有限責任社員がいれば無限責任社員は責任を負わなくて良い
合同会社には、無限責任社員と有限責任社員の二種類の社員が存在する場合があります。
しかし、有限責任社員の存在は、無限責任社員の責任を免除するものではありません。
無限責任社員は、有限責任社員の出資額に関わらず、会社の債務に対して出資額を超えて責任を負う可能性があります。
無限責任を回避する方法はない
無限責任のリスクを完全に回避することはできませんが、軽減するための対策はあります。
以下に代表的な対策をまとめました。
対策 | 内容 |
---|---|
適切な契約書の締結 | 取引先との契約書には、責任範囲や免責事項を明確に記載することが重要です。 |
保険への加入 | 事業リスクに対応するための保険に加入することで、万が一の際に備えることができます。例えば、賠償責任保険や事業中断保険などが挙げられます。 |
事業計画の綿密な策定 | 実現可能な事業計画を策定し、リスクを予測することで、損失発生の可能性を低減できます。 |
定期的な財務状況の確認 | 会社の財務状況を定期的に確認し、早期に問題を発見することで、適切な対策を講じることができます。 |
コンプライアンスの徹底 | 法令遵守を徹底することで、違法行為による損害賠償リスクを低減できます。 |
これらの対策を講じることで、無限責任のリスクを軽減し、安心して事業を運営していくことが可能になります。
まとめ
この記事では、合同会社における無限責任について解説しました。
合同会社は、社員が出資額以上の責任を負う可能性がある「無限責任」という特徴を持つ会社形態です。
債務超過や違法行為、社員の不正行為などによって、私財を投じて責任を負うケースも想定されます。
一方で、株式会社のように出資額が責任の限度となる有限責任社員を設定することも可能です。
無限責任のリスクを軽減するためには、適切な契約書の締結、保険への加入、事業計画の綿密な策定、定期的な財務状況の確認、コンプライアンスの徹底といった対策が重要です。
これらの対策を講じることで、事業の安定性を高め、予期せぬ事態に備えることができます。
また、事業の状況に応じて、専門家(弁護士や税理士など)に相談することも有効な手段です。
無限責任のリスクと対策を正しく理解し、安全な事業運営を心がけましょう。