「マイクロ法人って実際どうなの?」と、設立を検討しているあなたは疑問だらけではないでしょうか?
この記事では、マイクロ法人とは何かという基本から、メリット・デメリット、設立手続きまでを初心者向けにわかりやすく解説します。
この記事を読めば、マイクロ法人を設立すべきかどうか、あなたにとって最適な選択ができるようになります。
さらに、実際に設立する際の費用感も具体的に理解できるので、安心して検討を進められます。
マイクロ法人とは?
そもそも法人とは?
「法人」とは、法律によって認められた権利や義務の主体となる団体のことです。
人と同じように契約を結んだり、財産を所有したり、裁判を起こしたりすることができます。
法人には、株式会社や合同会社などの「会社」と、公益社団法人や一般社団法人などの「社団法人」、公益財団法人や一般財団法人などの「財団法人」など、さまざまな種類があります。
マイクロ法人とはどんな法人?
マイクロ法人とは、法律によって明確に定義された用語ではありません。
一般的には、次のいずれかの法人を指すことが多いです。
- 従業員数が少ない小規模な法人
- 資本金が少額である法人
- 会社の経営者と家族だけで経営している法人
これらの法人を総称して「マイクロ法人」と呼ぶことが多いですが、明確な定義や線引きはありません。
マイクロ法人という言葉は、近年注目されている働き方改革や、起業しやすい社会の実現といった流れの中で、広く使われるようになってきました。
株式会社との違いは?
マイクロ法人として設立されることが多い株式会社と合同会社の違いは、以下の通りです。
項目 | 株式会社 | 合同会社 |
---|---|---|
設立費用 | 約25万円 | 約6万円 |
経営の決定 | 株主総会による決議が必要 | 社員間の協議によって決定 |
資金調達 | 株式発行による調達が可能 | 出資による調達となる |
社会的信用 | 合同会社よりも高い傾向 | 株式会社よりも低い傾向 |
上記以外にも、株式会社と合同会社にはさまざまな違いがあります。
どちらの形態が適しているかは、事業内容や規模、将来的な展望などを考慮して判断する必要があります。専門家の意見を聞くことも有効です。
マイクロ法人設立のメリット
マイクロ法人設立には、個人事業主として事業を行うよりも多くのメリットがあります。
ここでは、主なメリットを4つ解説します。
メリット1:社会的な信用度がアップする
個人事業主の場合と比較して、法人格を取得することで、対外的に「事業として安定している」「信頼できる」という印象を与えやすくなります。
これは、顧客獲得や取引先との契約において有利に働く可能性があります。
例えば、銀行融資を受けやすくなったり、大企業との取引が実現しやすくなるといったメリットが考えられます。
メリット2:資金調達が有利になる
法人になると、個人事業主よりも資金調達の選択肢が広がり、有利に進めやすくなります。
具体的には、以下のような資金調達方法があります。
- 銀行融資
- ベンチャーキャピタルからの投資
- クラウドファンディング
特に、銀行融資を受けやすくなる点は大きなメリットと言えるでしょう。
法人になると、決算書の作成が義務付けられるため、経営状況を客観的に示せるようになり、銀行からの信用を得やすくなるからです。
また、法人税率は所得税率よりも低いため、節税効果によって利益を積み重ねやすくなることも、資金調達を有利にする要因となります。
さらに、ベンチャーキャピタルからの投資を受けやすくなるというメリットもあります。
ベンチャーキャピタルは、将来性のある企業に投資を行い、その企業の成長を支援する投資会社です。
法人化することで、事業としての将来性をアピールしやすくなり、ベンチャーキャピタルからの投資を受けられる可能性が高まります。
メリット3:事業の損失を個人で負うリスクが軽減される(有限責任)
個人事業主の場合、事業が失敗して多額の借金を抱えてしまうと、自分の財産をすべて失ってしまう可能性があります。
しかし、法人化すると、事業と個人の財産が分離されるため、万が一事業が失敗した場合でも、出資した資本金以上の責任を負うことはありません(有限責任)。
例えば、あなたが100万円の資本金でマイクロ法人を設立し、事業が失敗して1億円もの借金を抱えてしまったとします。
この場合でも、あなたが負担する責任は、出資した100万円のみとなります。
残りの9,900万円は、会社の財産で支払うことになります。
ただし、会社の財産で支払えない場合には、債権者に損害を与える可能性があります。
そのため、事業が軌道に乗るまでは、個人保証を求められるケースもある点は留意が必要です。
メリット4:節税メリットがある
マイクロ法人設立の大きなメリットの一つに、節税メリットがあります。
法人化すると、個人事業主の場合と比べて、税率が低くなるだけでなく、様々な経費を計上できるようになるため、節税効果が期待できます。
主な節税メリットとしては、以下の点が挙げられます。
税率の低い法人税が適用される
個人事業主は、事業で得た所得に対して所得税を納めますが、法人になると法人税を納めます。
所得税は、所得が多くなるほど税率が高くなる累進課税が採用されています。
一方、法人税は、一定の所得までは均一な税率が適用されるため、所得が多くなるほど節税効果が高くなります。
課税所得 | 所得税率 | 法人税率(実効税率) |
---|---|---|
~195万円 | 5% | 15%(約19%) |
195万円超~330万円 | 10% | |
330万円超~695万円 | 20% | |
695万円超~900万円 | 30% | 23.2%(約29%) |
900万円超~1,800万円 | 33% | |
1,800万円超 | 40% | 23.2%(約29%) |
上記の表は、令和5年分の所得税率と法人税率(実効税率)を比較したものです。
例えば、課税所得が900万円の場合、所得税率は33%ですが、法人税の実効税率は約29%となり、約4%の節税効果があります。
さらに、課税所得が1,800万円を超えると、所得税率は40%になりますが、法人税の実効税率は約29%で据え置きになるため、約11%もの節税効果があります。
このように、法人化することで、税率の低い法人税が適用されるため、節税効果が期待できます。
給与所得控除を受けられる
法人化すると、自分自身に給与を支払うことができます。
給与として受け取ったお金には給与所得控除が適用されるため、その分所得税と住民税が軽減されます。
給与所得控除額は、給与収入の額に応じて異なりますが、最低でも65万円は控除されます。
そのため、所得税と住民税を合わせて年間約13万円の節税になります。
また、家族に給与を支払うことで、扶養控除を受けることも可能です。
様々な経費が認められる
個人事業主の場合、経費として認められるのは、事業に直接関係する費用のみです。
しかし、法人になると、事業に間接的に関係する費用も経費として計上できる場合があります。
例えば、以下のような費用が挙げられます。
- 事務所の家賃や光熱費
- 通信費
- 接待交際費
- 旅費交通費
- 福利厚生費
これらの費用を経費計上することで、課税対象となる所得が減り、節税効果が期待できます。
ただし、経費として認められるかどうかは、費用の内容や金額によって判断されるため、事前に税理士に相談することをおすすめします。
このように、マイクロ法人設立には、節税メリットも多いため、総合的に判断する必要があるでしょう。
節税対策は、事業の状況や家族構成などによって最適な方法が異なるため、税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
参考資料:
マイクロ法人設立のデメリット
マイクロ法人設立には、メリットだけでなく、いくつかのデメリットも存在します。
メリットだけを見て安易に設立を決断してしまうと、後々後悔することにもなりかねません。
そこで、ここではマイクロ法人設立のデメリットについて詳しく解説していきます。
デメリット1:設立費用や運営費用がかかる
株式会社と比べて費用が抑えられるとはいえ、マイクロ法人設立には費用がかかります。
主な費用としては、以下のものが挙げられます。
- 定款認証費用
- 登録免許税
- 司法書士への報酬(設立手続きを依頼する場合)
また、設立後も、以下のような運営費用が毎年発生します。
- 法人税
- 住民税
- 事業税
- 消費税
- 会計ソフト利用料
- 税理士報酬(税務申告を依頼する場合)
これらの費用を負担できるかどうか、事前にしっかりと検討しておく必要があります。
費用の目安としては、設立費用は20万円〜30万円程度、ランニングコストは年間数十万円程度が一般的です。
ただし、これはあくまで目安であり、事業内容や規模によって大きく異なる点に注意が必要です。
費用の詳細については、専門家に相談することをおすすめします。
デメリット2:事務作業が増える
マイクロ法人を設立すると、個人事業主として活動していた場合に比べて、事務作業が大幅に増加します。
主な事務作業としては、以下のようなものがあります。
- 会計処理
- 税務申告
- 社会保険の手続き
- 株主総会の開催
- 取締役会の開催
これらの事務作業に時間を取られるため、本業に集中できない可能性もあります。
特に、設立当初は、不慣れな事務作業に戸惑うことも多いでしょう。
事務作業を効率化するため、会計ソフトを導入したり、税理士に依頼したりすることも検討する必要があります。
また、時間的な制約がある場合は、従業員を雇用することも考えられます。
いずれにしても、事務作業の増加は避けられないことを認識しておく必要があります。
デメリット3:社会保険の加入義務が生じる
マイクロ法人を設立すると、原則として社会保険(健康保険、厚生年金保険)の加入義務が生じます。
個人事業主の場合、国民健康保険と国民年金に加入することになりますが、マイクロ法人設立後は、従業員と同様に社会保険に加入しなければなりません。
社会保険料は、会社と従業員が折半して負担します。
そのため、個人事業主として活動していた場合に比べて、社会保険料の負担が増加します。
社会保険料の負担額は、給与水準によって異なります。マイクロ法人設立前に、社会保険料の試算を行い、事業計画に無理がないか確認する必要があります。
また、社会保険の加入手続きや保険料の納付など、事務作業も増加します。
これらのデメリットを踏まえた上で、マイクロ法人設立を検討する必要があります。
もし、デメリットがメリットを上回ると判断した場合には、マイクロ法人設立を見送ることも検討しましょう。
最終的には、自身の事業計画や状況に合わせて、最適な選択をすることが重要です。
マイクロ法人設立の手続き
マイクロ法人設立の手続きは、大きく分けて以下のようになります。
- 定款の作成
- 定款の認証
- 登録免許税の納付
- 会社設立の登記
- 税務署などへの届出
以下、それぞれの項目について詳しく解説していきます。
定款の作成
定款とは、会社の目的やルールを定めた根本規則です。
マイクロ法人を設立するためには、まずこの定款を作成する必要があります。
定款には、以下の事項を記載する必要があります。
- 会社の目的
- 商号(会社の名前)
- 本店の所在地
- 資本金の額
- 事業年度
- 発行可能株式総数
- 取締役の任期
定款は、電子定款にするか、紙の定款にするかを選択できます。
電子定款で手続きを行う場合は、法務省が提供する電子認証システムを利用する必要があり、事前に電子署名を取得しておく必要があります。
紙の定款で手続きを行う場合は、公証役場での認証が必要となります。
近年では、費用や手続きの面から電子定款で手続きを行うケースが増えています。
定款の作成方法
定款は、専門家に依頼して作成してもらうこともできますが、雛形を参考にしながら自身で作成することも可能です。
雛形は、法務省のウェブサイトや、書籍、インターネットなどから入手することができます。
ただし、定款は会社の重要な規則となるため、内容をよく理解した上で作成することが重要です。
不明点があれば、専門家に相談するようにしましょう。
定款の認証
作成した定款は、公証役場で認証を受ける必要があります。
公証役場では、定款の内容が法律に違反していないか、また、記載事項に不備がないかなどを審査します。
認証を受けるためには、以下の書類を公証役場に提出する必要があります。
- 定款
- 発起人の印鑑証明書
- 資本金の払込を証明する書類
公証役場での認証が完了すると、定款に公証役場の認証印が押印されます。
これにより、定款が正式に有効なものとなります。
登録免許税の納付
会社設立の登記を行うためには、登録免許税を納付する必要があります。
登録免許税は、電子納税または金融機関で納付します。
登録免許税の額は、資本金の額によって異なります。資本金が1,000万円以下の場合は、15万円となります。
資本金の額 | 登録免許税の額 |
---|---|
1,000万円以下 | 15万円 |
1,000万円超5,000万円以下 | 資本金の額×0.7/1000+7.5万円 |
5,000万円超 | 資本金の額×0.3/1000+15万円 |
登録免許税の納付が確認されると、登記申請を行うことができます。
会社設立の登記
登録免許税の納付後、会社の設立登記を行います。
登記は、会社の本店所在地を管轄する法務局で行います。
登記申請には、以下の書類が必要です。
- 会社設立登記申請書
- 定款
- 発起人の就任承諾書
- 取締役の就任承諾書
- 監査役の就任承諾書(監査役設置会社の場合)
- 登録免許税の納付書
- 印鑑届出書
- その他、法務局が必要とする書類
登記申請が受理されると、法務局が審査を行い、問題がなければ会社設立が認められます。
会社設立が認められると、登記事項証明書が発行されます。
登記事項証明書は、会社の設立が正式に認められたことを証明する重要な書類です。
税務署などへの届出
会社設立後、以下の機関に届出を行う必要があります。
税務署
- 法人設立届出書
- 青色申告承認申請書
- 給与支払事務所等の開設届出書(従業員を雇用する場合)
- 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書
都道府県税事務所・市町村役場
- 法人設立届出書
- 青色申告書の提出に関する届出書
労働基準監督署
- 労働保険新規適用届
- 保険関係成立届
公共職業安定所(ハローワーク)
- 雇用保険適用事業所設置届
- 事業所設置届(新規)(建設業の場合)
これらの届出は、会社設立後速やかに行う必要があります。
届出が遅れると、罰金が科せられる場合もあるため注意が必要です。
マイクロ法人設立の手続きは、複雑で時間と手間がかかります。
そのため、専門家である税理士や司法書士に相談しながら進めることをおすすめします。
専門家に依頼することで、手続きをスムーズに進めることができ、また、法律や税務に関するアドバイスを受けることもできます。
専門家のサポートを受けることで、安心してマイクロ法人を設立することができます。
マイクロ法人設立に必要な費用
マイクロ法人設立にかかる費用は、大きく分けて「登録免許税」と「定款認証費用」の2つに分けられます。
これらの費用は、法人を設立するために必ず支払わなければならない費用です。
その他、定款作成を専門家に依頼した場合の「専門家報酬」や、印鑑を作成する際の「印鑑作成費用」などが発生する場合があります。
費用の内訳
費用項目 | 内訳 | 目安 |
---|---|---|
登録免許税 | 株式会社を設立する場合には最低でも15万円が必要ですが、 LLC(合同会社)の場合、オンライン申請を利用すれば登録免許税はかかりません。 | 0円~15万円 |
定款認証費用 | 電子定款を作成する場合、費用はかかりません。 紙の定款を作成する場合、公証役場へ支払う費用が発生します。 | 0円または5万円程度 |
専門家報酬 | 定款作成や登記手続きなどを専門家に依頼する場合に発生します。 | 数万円~数十万円程度 |
印鑑作成費用 | 法人設立時に、会社実印、銀行印、角印を作成する場合に発生します。ただし、必ずしも作成する必要はありません。 | 数千円~数万円程度 |
費用の節約方法
マイクロ法人設立にかかる費用を抑えるためには、以下の方法が考えられます。
1. オンライン申請を利用する
法人を設立する場合、法務局への申請はオンライン上で行うことが可能です。
オンライン申請を利用すると、紙の定款を作成する必要がなくなり、定款認証費用(約5万円)を節約できます。
また、登録免許税についても、株式会社の場合には最低でも15万円が必要になりますが、LLC(合同会社)の場合、オンライン申請を利用すれば登録免許税はかかりません。
2. 専門家に依頼する業務範囲を絞る
専門家に依頼する業務範囲を絞ることで、専門家報酬を抑えることができます。
例えば、定款作成のみを専門家に依頼し、その他の設立手続きは自身で行うことで、費用を抑えることができます。
専門家報酬は依頼する業務範囲によって大きく異なるため、事前に複数の専門家に相談し、見積もりを比較検討することが重要です。
3. 印鑑は必ずしも作成しない
会社設立時に、会社実印、銀行印、角印を作成する場合、数千円~数万円程度の印鑑作成費用が発生します。
しかし、法律上、これらの印鑑を作成することが義務付けられているわけではありません。
そのため、費用を抑えたい場合は、印鑑の作成を見送ることも検討しましょう。
ただし、取引先によっては印鑑の押印を求められる場合もあるため、事前に確認しておくことが重要です。
マイクロ法人設立にかかる費用は、設立方法や専門家への依頼状況によって大きく異なります。
できる限り費用を抑えたい場合は、オンライン申請の利用や専門家への依頼範囲の絞り込みなど、工夫してみましょう。
費用の目安や節約方法を事前に把握しておくことで、安心して設立準備を進めることができます。
マイクロ法人設立のまとめ
この記事では、マイクロ法人設立について、メリット・デメリット、手続き、費用を解説しました。
マイクロ法人設立は、社会的な信用力や資金調達の面で有利になるなど、多くのメリットがあります。
一方で、設立費用や運営費用、事務作業の増加など、デメリットも存在します。
手続きや費用をよく理解した上で、マイクロ法人設立を検討しましょう。
この記事が、これからマイクロ法人設立を目指す方の参考になれば幸いです。