株式会社設立の資本金はいくらがベスト?プロが教える最適な決め方と注意点

株式会社設立時の資本金、いくらにすれば良いか悩んでいませんか?

1円でも設立は可能ですが、金額次第で信用度や税金、融資の可否が大きく変わります。

本記事では、最適な資本金額の決め方をプロが徹底解説。結論、資本金の目安は「初期費用+運転資金3ヶ月分」です。
その明確な理由から、1000万円の壁、払込み手続きの注意点まで、後悔しないための知識を網羅的にご紹介します。

結論 株式会社設立の資本金は「初期費用+運転資金3ヶ月分」が目安

株式会社の設立を考えたとき、多くの方が最初に悩むのが「資本金はいくらにすれば良いのか?」という問題です。

2006年の会社法施行により、法律上は資本金1円からでも株式会社を設立できるようになりました。
しかし、これはあくまで「設立できる」というだけで、事業を円滑に進め、成長させていくためには現実的な金額ではありません。

結論から申し上げると、株式会社設立時の資本金の最適な目安は「事業開始に必要な初期費用」と「最低3ヶ月分の運転資金」を合計した金額です。
この計算式で算出された金額を資本金として設定することで、設立直後の資金繰りに余裕が生まれ、事業を安定してスタートさせることができます。

なぜこの金額がベストなのか、その理由や具体的な計算方法について、これから詳しく解説していきます。

資本金額を算出するための2つの重要な要素

最適な資本金額を計算するために、まずは「初期費用」と「運転資金」にそれぞれどのような費用が含まれるのかを正確に把握しましょう。

ご自身の事業計画に沿って、必要な項目をリストアップし、漏れなく計算することが重要です。

要素1:初期費用(イニシャルコスト)

初期費用とは、事業を開始するまでに一度だけ発生する費用のことです。
業種や事業規模によって大きく異なりますが、主に以下のようなものが挙げられます。

費用項目内容例金額の目安
法人設立費用定款印紙代(電子定款なら0円)、定款認証手数料、登録免許税などの実費約20万円~25万円
事務所・店舗の契約費用保証金(敷金)、礼金、仲介手数料、前払家賃など家賃の6ヶ月~10ヶ月分
内装・設備工事費オフィスの内装工事、店舗の厨房設備、看板設置など数十万円~数百万円
什器・備品購入費デスク、椅子、PC、電話、複合機、ソフトウェア、レジなど事業内容による
広告宣伝費会社ウェブサイト制作費、パンフレット・名刺作成費、ロゴデザイン費など事業内容による
許認可取得費用許認可申請に行政書士などを利用する場合の報酬や申請手数料許認可の種類による

特に事務所や店舗を借りる場合は、保証金や内装工事費で大きな金額が必要になるため、事前にしっかりと見積もりを取っておきましょう。

要素2:運転資金(ランニングコスト)

運転資金とは、事業を継続していくために毎月発生する費用のことです。
売上がなくても支払わなければならない固定費が中心となります。

費用項目内容例
人件費役員報酬、従業員の給与、社会保険料の会社負担分
地代家賃事務所や店舗、駐車場の賃料
水道光熱費電気、ガス、水道料金
通信費電話、インターネット回線、サーバー代、携帯電話料金
仕入費・外注費商品の仕入れ代金、原材料費、業務委託先への支払い
広告宣伝費Web広告の運用費、プレスリリース配信費用、販促ツールの費用
その他諸経費交通費、消耗品費、リース料、税理士など専門家への顧問料

これらの項目を洗い出し、1ヶ月あたりに必要な運転資金を算出します。
そして、その最低3ヶ月分を資本金の一部として準備することが、安定した経営の鍵となります。

なぜ「3ヶ月分」の運転資金が目安なのか?

事業を開始してすぐに売上が立ち、その代金が即日入金されるケースは稀です。

多くのビジネスでは、サービス提供から請求、そして入金までに1〜2ヶ月のタイムラグが発生します。
その間も家賃や人件費などの支払いは待ってくれません。

また、予期せぬトラブルや計画通りに売上が伸びない可能性も十分に考えられます。
このような不測の事態に備え、売上がなくても最低3ヶ月間は事業を継続できる資金を確保しておくことで、資金ショートのリスクを大幅に軽減できます。
この「3ヶ月」という期間は、多くの金融機関が融資審査の際に企業の財務安定性を評価する上でも一つの基準としています。

【業種別】資本金シミュレーション

それでは、具体的な業種を例に、資本金額をシミュレーションしてみましょう。

ケース1:自宅で開業するWebデザイナーの場合

費用項目金額
初期費用 (A)法人設立費用約25万円
PC・ソフトウェア購入費約50万円
小計75万円
月々の運転資金 (B)役員報酬30万円
通信費・サーバー代2万円
その他経費3万円
小計35万円
運転資金3ヶ月分 (C = B × 3)105万円
推奨資本金額 (A + C)180万円

ケース2:小規模な飲食店(10坪)を開業する場合

費用項目金額
初期費用 (A)法人設立費用約25万円
店舗契約費用(保証金含む)約150万円
内装・厨房設備費約300万円
小計475万円
月々の運転資金 (B)人件費(役員報酬+アルバイト)60万円
家賃15万円
仕入れ費40万円
水道光熱費・その他10万円
小計125万円
運転資金3ヶ月分 (C = B × 3)375万円
推奨資本金額 (A + C)850万円

このように、ご自身の事業計画に基づいて現実的な数値を積み上げていくことが、最適な資本金額を決めるための最も確実な方法です。

上記のシミュレーションを参考に、ぜひご自身のケースで計算してみてください。

会社設立の代行費用実質0円、個人事業主とのメリットデメリット流れと手順

なぜその資本金額がベストなのか?3つの明確な理由

2006年の会社法改正により、理論上は資本金1円でも株式会社を設立できるようになりました。

しかし、現実的な事業運営を考えると、資本金1円での設立は多くのデメリットを伴います。

結論としてお伝えした「初期費用+運転資金3ヶ月分」という資本金額がなぜベストなのか。
その背景には、会社の信用力、資金調達、そして事業継続性という3つの重要な要素が深く関わっています。

ここでは、その明確な理由を一つずつ詳しく解説します。

理由1 取引先や金融機関からの信用を得るため

資本金は、会社の「体力」を示す重要な指標です。

会社の登記事項証明書(登記簿謄本)には資本金の額が記載されており、誰でも閲覧できます。
そのため、資本金の額は、あなたの会社がどれだけの事業基盤を持っているかを示す「第一の顔」とも言えるのです。

例えば、あなたが新しい取引先と契約を結ぼうとする際、相手企業の担当者はあなたの会社の信用度を測るために登記事項証明書を確認する可能性があります。
その際に資本金が1円や10万円といった極端に低い金額だった場合、「この会社は事業を継続する体力があるのだろうか」「支払い能力に問題はないか」といった不安を抱かせてしまうかもしれません。
特に、大企業との取引や、継続的な仕入れが発生するBtoBビジネスにおいては、一定額以上の資本金がなければ与信審査に通らないケースも少なくありません。

また、金融機関も同様です。

資本金は自己資金の一部であり、経営者がどれだけのリスクを負って事業を始めるのかという「本気度」の表れと見なされます。

資本金が少ないと、事業へのコミットメントが低いと判断され、後述する融資の審査においても不利に働く可能性があります。

社会的な信用を得て、円滑な事業活動を行うための土台として、適切な資本金設定は不可欠なのです。

理由2 創業融資の審査を有利に進めるため

会社設立後の事業拡大を見据え、多くの経営者が日本政策金融公庫の「新創業融資制度」などの創業融資の活用を検討します。
この創業融資の審査において、資本金は「自己資金」として極めて重要な評価項目となります。

金融機関の審査担当者は、提出された事業計画の妥当性はもちろんのこと、「経営者が事業のためにどれだけの資金を準備してきたか」を厳しくチェックします。
なぜなら、自己資金を十分に準備していることは、計画性の高さや事業への熱意の証明となるからです。

資本金は、この自己資金を客観的に証明する最も強力な証拠となります。

一般的に、創業融資では「融資希望額の3分の1から10分の1程度の自己資金」が目安の一つとされています。

例えば、300万円の融資を受けたい場合、少なくとも30万円〜100万円程度の自己資金(資本金)を用意しておくことが望ましいでしょう。
もちろん、自己資金が多ければ多いほど審査上有利になる傾向があります。

将来的な資金調達の選択肢を広げ、有利な条件で融資を受けるためにも、設立時の資本金額は戦略的に決定する必要があるのです。

理由3 事業が軌道に乗るまでの資金ショートを防ぐため

会社を設立して事業を開始しても、すぐに売上が立ち、現金が入金されるわけではありません。
特にBtoB取引では、商品を納品したりサービスを提供したりしてから、その代金が支払われるまで1〜2ヶ月かかる「掛取引」が一般的です。
しかし、その間にもオフィスの家賃や従業員の給与、広告宣伝費などの経費は毎月発生します。

この、売上が入金されるまでのタイムラグを乗り越え、事業を継続させるための「命綱」となるのが資本金です。

資本金が不足していると、売上は順調に伸びているにもかかわらず、手元の現金が尽きてしまう「黒字倒産」のリスクに直面しかねません。

そこで目安となるのが「運転資金の3ヶ月分」です。事業が軌道に乗り、キャッシュフローが安定するまでには、少なくとも3ヶ月から半年程度かかると言われています。

最低でも3ヶ月分の運転資金を資本金として確保しておくことで、目先の支払いに追われることなく、営業活動や事業開発に集中できます。
これは経営者の精神的な安定にも繋がり、より良い経営判断を下すための基盤となります。

費用項目金額(月額)備考
役員報酬250,000円生活費として最低限必要な額
事務所家賃100,000円共益費なども含む
水道光熱費・通信費30,000円電気、ガス、水道、インターネット、電話代など
広告宣伝費50,000円Web広告、チラシ作成費用など
その他諸経費70,000円交通費、消耗品費、税理士報酬など
合計500,000円この場合、3ヶ月分で150万円が運転資金の目安

上記の例であれば、運転資金3ヶ月分として150万円、さらに事務所の契約金や備品購入などの初期費用が50万円かかるとすれば、合計200万円が資本金の一つの目安となります。
このように、ご自身の事業計画に沿って具体的な数値を算出し、余裕を持った資本金を設定することが、設立後の安定した経営を実現する鍵となります。

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資本金の額で変わる税金と許認可 設立前に知るべきポイント

株式会社設立時の資本金額は、会社の信用度や資金繰りだけでなく、設立後の税負担や事業に必要な許認可の取得にも直接的な影響を及ぼします。

知らずに資本金額を決めてしまうと、「余計な税金を支払うことになった」「事業を始めるための許可が下りない」といった事態に陥りかねません。

ここでは、資本金額が具体的にどのように税金や許認可に関わってくるのか、設立前に必ず押さえておくべき重要なポイントを解説します。

資本金1000万円の壁と消費税の免税事業者

会社設立における資本金額を考える上で、最も重要なポイントの一つが「資本金1000万円の壁」です。
これは、設立後の消費税の納税義務に大きく関わってきます。

原則として、資本金1000万円未満で会社を設立した場合、設立1期目と2期目の消費税の納税が免除されます
これを「免税事業者」と呼びます。事業を開始したばかりの時期は、売上も安定せず資金繰りが厳しいことが多いため、消費税の納税が免除されるメリットは非常に大きいと言えるでしょう。

ただし、2期目も免税事業者でいるためには、設立1期目の上半期(これを「特定期間」と呼びます)の課税売上高と給与等支払額が、いずれも1000万円を超えていないことが条件となります。
この条件を超えてしまうと、2期目から課税事業者となり消費税を納める必要が出てくるため注意が必要です。

近年、インボイス制度(適格請求書等保存方式)が導入されたことにより、取引先との関係で免税事業者であってもあえて課税事業者となり、適格請求書発行事業者の登録を選択するケースも増えています。
しかし、BtoC事業など、取引先がインボイスを必要としない事業モデルの場合は、免税事業者のメリットを最大限に活用できます。

特別な理由がない限り、資本金は1000万円未満に設定することが、税務上の賢い選択と言えます。

法人住民税の均等割を抑える資本金額

会社を設立すると、たとえ事業が赤字であっても支払わなければならない税金があります。
その代表が「法人住民税の均等割」です。この均等割の金額は、会社の利益に関係なく、「資本金等の額」と「従業員数」によって機械的に決まります。

つまり、資本金を低く抑えることで、毎年必ず発生する法人住民税の均等割を最低限にすることができます

多くの自治体では、資本金が1000万円以下の場合、均等割の額は最低ランクに設定されています。

以下に、東京都を例とした資本金等の額と法人住民税(均等割)の関係をまとめました。

資本金等の額都内に有する事務所等の従業者数の合計均等割額(年額)
1000万円以下50人以下7万円
1000万円以下50人超14万円
1000万円超 1億円以下50人以下18万円
1000万円超 1億円以下50人超20万円

表からも分かるように、資本金が1000万円を超えるだけで、従業員数が50人以下であっても均等割の額は7万円から18万円へと一気に跳ね上がります。

会社のランニングコストを少しでも抑えるという観点からも、資本金を1000万円以下に設定するメリットは大きいのです。

許認可事業で定められた資本金要件

世の中には、事業を始めるにあたって国や地方自治体からの「許認可」が必要な業種があります。
そして、その許認可を取得するための要件の一つとして、一定額以上の資本金や財産的基礎が求められる場合があります。
これから始めようとする事業が許認可事業に該当する場合は、必ずその要件を確認し、それを満たす資本金額を設定しなければなりません。

建設業許可の場合

建設業を営む場合、軽微な工事を除き「建設業許可」が必要です。
この許可のうち、「一般建設業許可」を取得するためには、財産的基礎として以下のいずれかを満たす必要があります。

  • 自己資本の額が500万円以上であること
  • 500万円以上の資金調達能力があること

会社設立時に資本金を500万円以上に設定しておけば、「自己資本の額が500万円以上」という要件を明確に満たすことができます
これにより、設立後すぐに建設業許可の申請手続きをスムーズに進めることが可能になります。

資本金が500万円未満でも金融機関の預金残高証明書で資金調達能力を証明する方法もありますが、設立時の資本金で要件をクリアするのが最もシンプルで確実な方法です。

人材派遣業許可の場合

人材派遣業(一般労働者派遣事業)を始めるには、厚生労働大臣の許可が必要です。
この許可要件は非常に厳しく、特に財産的要件は高いハードルとなっています。

具体的には、以下の2つの基準を同時に満たす必要があります。

  1. 基準資産額(資産の総額から負債の総額を控除した額)が2,000万円以上であること
  2. 現金・預金の額が1,500万円以上であること

これらの要件は、派遣労働者への給与支払いを確実に行うためのものであり、会社の財務的な安定性が厳しく問われます。
そのため、これから人材派遣業で会社を設立する場合、設立時の資本金を2,000万円以上に設定することが、許可取得のための最も確実な方法となります
この要件を満たせない場合は、事業を開始すること自体ができませんので、十分な自己資金の準備が不可欠です。

会社設立の代行費用実質0円、個人事業主とのメリットデメリット流れと手順

データで見る株式会社設立の資本金相場

会社法上、株式会社は資本金1円から設立可能ですが、実際に1円で設立するケースは稀です。

では、世の中の起業家は一体いくらを資本金として会社を設立しているのでしょうか。

ここでは、公的なデータを基に、株式会社設立における資本金のリアルな相場を解説します。

ご自身の資本金額を決める上での客観的な指標としてご活用ください。

資本金の平均額はいくら?

信頼性の高いデータとして、日本政策金融公庫が毎年発表している「新規開業実態調査」が参考になります。

最新の調査結果によると、開業時の資本金の平均額は300万円前後で推移しています。

さらに詳細なデータを見ると、資本金の分布で最も多い価格帯は「100万円以上300万円未満」であり、次いで「300万円以上500万円未満」となっています。
この2つの価格帯で、新規開業企業全体の過半数を占めることが多く、多くの起業家が100万円から500万円の範囲内で資本金を設定していることがわかります。

2006年の会社法改正で最低資本金制度(株式会社は1,000万円、有限会社は300万円)が撤廃されて以降、起業のハードルは大きく下がりました。
しかし、事業を安定的に運営し、社会的な信用を得るためには、ある程度の資本金が必要であるという認識が、このデータから見て取れます。

資本金100万円 300万円 500万円のメリットとデメリット比較

前述のデータでもボリュームゾーンとなっていた「100万円」「300万円」「500万円」は、多くの起業家が資本金額を検討する際の具体的な選択肢となります。

ここでは、それぞれの金額帯におけるメリットとデメリットを比較し、どのような事業モデルに適しているかを解説します。

資本金額メリットデメリット
100万円自己資金の負担が少なく、設立のハードルが最も低い。スモールスタートを切りやすく、迅速に事業を開始できる。法人住民税の均等割を最低額に抑えられる。対外的な信用度が低く見られがちで、大口の取引が難しい場合がある。運転資金に余裕がなく、少しの赤字で資金ショートのリスクが高まる。創業融資の審査において、自己資金の少なさが不利に働く可能性がある。
300万円一定の事業体力があると見なされ、社会的な信用を得やすくなる。数ヶ月分の運転資金を確保でき、事業が軌道に乗るまでの安定性が増す。創業融資の申し込み時に、自己資金要件を満たしやすくなる。100万円と比較して、設立時の自己資金の準備負担が大きくなる。事業規模によっては、運転資金として十分とは言えない場合もある。
500万円金融機関や取引先から高い信用を得られ、有利な条件で取引を進めやすい。潤沢な運転資金により、設備投資や人材採用など積極的な事業展開が可能になる。建設業など、特定の許認可で求められる資産要件を満たせる場合がある。設立のためにまとまった自己資金が必要となり、個人の負担が非常に大きい。事業計画が伴わない場合、単に寝かせている資金となってしまう可能性がある。

このように、資本金額はそれぞれ一長一短です。Webサービスやコンサルティングなど初期投資が少ない事業であれば100万円からでもスタート可能ですが、店舗経営や製造業など初期費用や仕入れがかさむ事業では、300万円以上の資本金が現実的な選択肢となるでしょう。

自社の事業計画、必要な初期費用、そして目標とする社会的信用度を総合的に考慮し、最適な資本金額を決定することが成功への鍵となります。

会社設立の代行費用実質0円、個人事業主とのメリットデメリット流れと手順

資本金1円での株式会社設立が現実的ではない理由

2006年の会社法改正により、最低資本金制度(株式会社は1,000万円、有限会社は300万円)が撤廃され、法律上は資本金1円でも株式会社を設立できるようになりました。
しかし、これはあくまで「法律上可能」というだけであり、ビジネスを継続していく上では極めて非現実的です。なぜ資本金1円での設立が推奨されないのか、その明確な理由を解説します。

理由1:社会的信用が著しく低くなる

資本金は会社の体力や事業への本気度を示す重要な指標です。

資本金が1円であることは、外部から「事業継続の意思が低い」「財務基盤が脆弱である」と見なされ、あらゆる場面で深刻なデメリットをもたらします。

取引先や顧客からの信用

新規で取引を開始する際、多くの企業は相手方の信用調査を行います。
その際に登記事項証明書で資本金の額を確認されることは少なくありません。

資本金が1円の会社に対しては、「支払い能力に不安がある」「すぐに倒産するのではないか」という懸念を抱かれ、取引を断られたり、現金取引や前払いを求められたりする可能性が高まります。
これはビジネスチャンスを大きく損失することに直結します。

金融機関からの信用

事業を運営する上で、金融機関からの融資は重要な資金調達手段です。
しかし、資本金1円では、創業融資の審査に通ることは絶望的と言えるでしょう。
金融機関は融資審査において、自己資金の額を厳しくチェックします。
資本金は自己資金の核となる部分であり、1円しか準備できないということは、事業に対する準備不足や計画性の欠如を露呈するようなものです。
結果として、必要な時に資金を借り入れることができず、事業拡大の機会を逃してしまいます。

理由2:設立直後に資金ショートに陥る

会社を設立すると、売上が立つ前から様々な費用が発生します。

資本金1円では、これらの支払いを一切賄うことができず、設立した瞬間に資金が底をついてしまいます。

具体的に、設立直後から発生する費用の例を見てみましょう。

費用の種類内容・具体例備考
会社設立費用登録免許税(最低15万円)、定款認証手数料(約5万円)など資本金1円でも最低約20万円は必要
オフィス関連費用事務所の敷金・礼金・仲介手数料、前払家賃、PC・机などの備品購入費事業を始めるための最低限の環境整備費
運転資金仕入費用、広告宣伝費、交通費、通信費、役員報酬、従業員給与売上が入金されるまでの数ヶ月間を支える資金

これらの費用を支払うために、結局は代表者個人が会社にお金を貸し付ける「役員借入金」で対応せざるを得なくなります。
しかし、役員借入金は会社の貸借対照表上「負債」として計上されます。

負債が多い会社は財務状況が悪いと判断され、前述した金融機関からの信用をさらに低下させる悪循環に陥ります。

理由3:必要な許認可が取得できない

事業内容によっては、事業を開始するために国や都道府県から「許認可」を得る必要があります。
これらの許認可の中には、申請の要件として一定額以上の資本金(または純資産額)が定められているものがあります。

  • 建設業許可:500万円以上の自己資本(または500万円以上の資金調達能力)
  • 一般労働者派遣事業許可:資産総額から負債総額を控除した額が2,000万円以上(かつ、現預金額が1,500万円以上)

上記は一例ですが、これらの事業を計画している場合、資本金1円では事業をスタートラインに立たせることすらできません。

自社が始める事業に許認可が必要かどうか、そしてその要件は何かを設立前に必ず確認する必要があります。

理由4:設立費用が資本金を大幅に上回る

株式会社の設立には、資本金の額にかかわらず、登録免許税として最低でも15万円が必要です。

資本金1円で会社を設立するということは、会社の体力として用意したお金(1円)よりも、設立手続きのための税金(15万円)の方が遥かに高いという、極めてアンバランスな状態を意味します。
これは、会社の財務基盤を示すべき資本金が、その本来の役割を全く果たしていないことを対外的に示しているのと同じです。
このような不自然な状態は、企業の信用性を著しく損なう要因となります。

会社設立の代行費用実質0円、個人事業主とのメリットデメリット流れと手順

株式会社設立における資本金払込み手続きと注意点

株式会社を設立する際、定款の作成や役員の決定と並行して、資本金の払込み手続きを進める必要があります。
この払込みは、会社が事業を始めるための元手となる資金が確かに存在することを証明する重要なプロセスです。

法務局での設立登記申請時に、この払込みが完了していることを証明する書類の提出が義務付けられています。

手続き自体は複雑ではありませんが、いくつかの重要なポイントと注意点がありますので、順を追って詳しく解説します。

払込みを証明する通帳コピーの準備

資本金の払込みを証明するためには、「払込証明書」と「払込みがあったことを証明する通帳のコピー」が必要です。
特に通帳の準備にはいくつかのルールがあるため、正確に理解しておきましょう。

具体的な手続きの流れは以下の通りです。

  1. 定款の作成および認証(公証役場にて)を完了させます。
  2. 発起人の代表者個人の銀行口座に、各発起人が出資する金額を振り込みます。(発起人が一人の場合は、自身の口座へ入金します)
  3. 資本金の全額が振り込まれたことを確認し、法務局へ提出する「払込証明書」を作成します。
  4. 払込みの事実を証明するため、銀行通帳の必要なページをコピーします。
  5. 作成した払込証明書と通帳のコピーを一つにまとめ、会社の実印で契印します。

ここで最も注意すべき点は、振込先の口座は、新しく設立する会社名義の口座ではなく、発起人個人の口座であるという点です。

会社名義の銀行口座は、設立登記が完了した後でなければ開設できないため、この段階では発起人の誰か一人の個人口座を一時的に使用します。払込みのタイミングは、定款を作成した日以降でなければなりません。

また、通帳のコピーは以下の3つの部分が必ず必要となります。

ネット銀行などで通帳がない場合は、該当箇所を印刷した書面で代用できます。

コピーするページ記載されている主な内容ポイント
通帳の表紙金融機関名どの銀行の通帳であるかを明確にします。
表紙を1枚めくった見開きページ金融機関名、支店名、口座種別、口座番号、口座名義人(カタカナ)誰の、どの口座に振り込まれたのかを特定するために必須です。
入出金明細のページ取引日、入金額、取引後残高、摘要(振込人名)各発起人からの振込履歴がすべて記帳されている必要があります。誰からいくら振り込まれたかが明確にわかるようにしてください。

発起人が複数いる場合は、それぞれの発起人名義で振り込んでもらうのが原則です。
これにより、誰がいくら出資したのかが客観的に証明できます。発起人が一人の場合は、自身の別口座から振り込むか、預け入れでも構いませんが、後のトラブルや税務上の問題を避けるためにも、振込の形をとるのが最も確実です。
これらの書類を整え、他の登記申請書類と共に法務局へ提出します。

「見せ金」と判断されないためのポイント

資本金の払込みにおいて、絶対に避けなければならないのが「見せ金」です。

見せ金とは、第三者から一時的に資金を借り入れ、資本金の払込みに充て、会社の設立登記が完了したらすぐに返済する行為を指します。
これは資本充実の原則に反する違法行為であり、会社法で払込みそのものが無効とされています。

「短期間ならバレないだろう」と安易に考えるのは非常に危険です。
特に、創業融資を申し込む際には、金融機関から数ヶ月〜1年分の個人口座および法人口座の履歴提出を求められます。
その際に、資本金払込みの直前に不自然な大口入金があり、設立後すぐに同額程度の出金があれば、見せ金であると判断される可能性が極めて高くなります。

見せ金が発覚すれば、融資を受けられないだけでなく、会社の信用を根底から失うことになります。

見せ金と判断されないためには、以下のポイントを徹底してください。

  • 自己資金で資本金を準備する
    最も確実で正当な方法です。コツコツと貯めてきた自己資金を資本金に充てることで、資金の出所が明確になります。
  • 資金の出所を証明できるようにする
    親族から援助を受ける場合は、金銭消費貸借契約書(借入の場合)や贈与契約書(贈与の場合)を作成し、客観的な証拠を残しておきましょう。
  • 払込み後すぐにお金を引き出さない
    振り込まれた資本金は、会社の設立後、事業に必要な設備投資や仕入れ、事務所の家賃などの経費支払いに充てるのが本来の目的です。少なくとも事業が軌道に乗るまでの数ヶ月間は、資本金を運転資金として口座に残しておくようにしましょう。
  • 個人の口座残高に注意する
    資本金の払込みを行う個人口座の残高がゼロに近い状態から、突然資本金相当額が入金され、それがそのまま会社の資金となるのは不自然に見える場合があります。ある程度の残高がある口座を利用する方が賢明です。

見せ金は、会社設立が無効になるだけでなく、公正証書原本不実記載等罪といった刑事罰の対象となる可能性もある重大なコンプライアンス違反です。

健全な会社経営の第一歩として、必ず自己資金で資本金を準備するようにしてください。

まとめ

株式会社設立時の資本金は「初期費用+運転資金3ヶ月分」が最適な目安です。
この金額は、取引先や金融機関からの信用獲得、創業融資の審査、資金ショート防止という3つの観点から事業の安定基盤となります。
また、資本金1000万円未満で消費税の免税事業者になれるなど、税制上のメリットも考慮すべき重要なポイントです。

本記事を参考に、ご自身の事業計画に合った適切な資本金額を決定してください。

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