会社の利益が増え、高い法人税にお悩みの経営者の方へ。
その有力な対策が「家族を役員にする」ことです。
本記事では、所得分散による節税、役員退職金の活用、将来の相続税対策といった大きなメリットを税理士が解説します。
結論として、勤務実態があり適正な報酬であれば、家族役員は会社と個人の手残りを最大化する極めて有効な手段です。
税務調査で否認されないための注意点や具体的な手続きも網羅しているため、この記事を読めば安心して最適な節税策を実行できます。
家族を役員にする4つのメリット
会社の経営者にとって、信頼できる家族を役員として迎え入れることは、単に身内を登用するというだけでなく、税務面や経営戦略面で多くのメリットをもたらします。
ここでは、家族を役員にすることで得られる具体的な4つのメリットを、税理士の視点から詳しく解説します。
メリット1 所得分散による大きな節税効果
家族を役員にする最大のメリットは、所得分散による節税効果です。
社長一人に高額な役員報酬を集中させると、所得税の累進課税制度により高い税率が適用されてしまいます。
しかし、家族を役員にして報酬を支払うことで、世帯全体の所得を分散させ、一人ひとりに適用される税率を低く抑えることが可能です。
これにより、会社が支払う報酬の総額は同じでも、世帯として手元に残る金額(可処分所得)を増やすことができます。
役員報酬は法人の経費(損金)として計上できるため、法人税の節税にも直接つながります。
所得分散による節税シミュレーション(例)
例えば、社長の役員報酬が年間1,800万円の場合と、社長が1,200万円、配偶者が600万円に分けて受け取る場合で、世帯全体での所得税・住民税額がどれだけ変わるか見てみましょう。
(※簡略化のため、給与所得控除、基礎控除、社会保険料控除のみを考慮した概算値です)
| ケースA:社長一人が1,800万円受け取る場合 | ケースB:社長1,200万円、配偶者600万円で分散した場合 | |
|---|---|---|
| 社長の税額(所得税・住民税) | 約560万円 | 約280万円 |
| 配偶者の税額(所得税・住民税) | 0円 | 約75万円 |
| 世帯合計の税額 | 約560万円 | 約355万円 |
| 節税額(A – B) | 年間 約205万円の節税 | |
上記のように、所得を分散するだけで、年間200万円以上の税負担を軽減できる可能性があります。
これは、累進課税の仕組みをうまく活用した、合法的かつ効果的な節税策と言えます。
メリット2 役員退職金の支給で法人税と所得税を圧縮
家族役員にも、退職時に役員退職金を支給することができます。
役員退職金は、税制上非常に優遇されており、法人と個人の両方にとって大きな節税メリットがあります。
法人側では、適正な金額の役員退職金は全額損金として算入できるため、支給する年度の法人税負担を大幅に軽減できます。
特に、大きな利益が出たタイミングで退職金を支給すれば、効果的な利益圧縮が可能です。
個人側(受け取る家族役員)では、「退職所得控除」という大きな控除が適用されます。
さらに、控除後の金額を1/2にしてから税率をかけるため、同じ金額を給与や賞与で受け取る場合に比べて、所得税・住民税の負担が劇的に軽くなります。
退職所得控除の計算方法
退職所得控除額は勤続年数によって決まり、長く勤めるほど控除額が大きくなります。
| 勤続年数 | 計算式 |
|---|---|
| 20年以下 | 40万円 × 勤続年数 (※80万円に満たない場合は80万円) |
| 20年超 | 800万円 + 70万円 × (勤続年数 – 20年) |
例えば、勤続30年の役員であれば、800万円 + 70万円 × (30年 – 20年) = 1,500万円もの退職所得控除が受けられます。
これは、将来の勇退に備えた資産形成として非常に有効な手段です。
メリット3 将来の相続税対策につながる
会社のオーナー社長は、自社株や個人資産が積み上がり、将来の相続税が高額になりがちです。
家族を役員にし、役員報酬を支払うことは、この相続税対策としても有効に機能します。
役員報酬として家族(将来の相続人)に資金を移転することで、社長個人の資産が過度に蓄積されるのを防ぎます。
これは、実質的に財産を生前に移転していることと同じ効果を持ちます。
贈与税には年間110万円の基礎控除がありますが、役員報酬であれば、その枠とは関係なく、勤務実態に見合った適正な報酬を支払うことで、合法的に、より大きな金額の財産を計画的に次世代へ移すことが可能になります。
これにより、将来発生するであろう相続財産そのものを圧縮し、相続税の負担を軽減する効果が期待できます。
メリット4 経営の安定化と後継者育成
税務面だけでなく、経営面でも大きなメリットがあります。
特にオーナー企業において、意思決定の重要なポジションを家族が担うことで、経営方針の共有がスムーズになります。
外部の役員を登用した場合に起こりうる意見の対立や経営権争いのリスクを低減し、迅速で一貫性のある経営判断を下しやすくなるため、経営が安定します。
また、将来の事業承継を視野に入れている場合、早い段階から後継者候補である子供などを役員として経営に参画させることは、極めて重要です。
従業員として現場を経験させるだけでなく、役員として取締役会に参加し、経営全体の意思決定プロセスを学ぶことで、経営者としての視点、責任感、そして判断力を養うことができます。
これは、座学では決して得られない貴重な経験であり、円滑な事業承継を実現するための最適な後継者育成プランと言えるでしょう。
家族を役員にする前に知るべき5つの注意点

家族を役員に迎えることは、所得分散による節税など多くのメリットがありますが、一方で安易に実行するとかえって大きな損失を招く可能性も秘めています。
特に税務上のルールは厳格で、知らなかったでは済まされないケースが少なくありません。
ここでは、後で「こんなはずではなかった」と後悔しないために、事前に必ず押さえておくべき5つの注意点を専門家の視点から詳しく解説します。
注意点1 勤務実態のない名ばかり役員はNG
家族を役員にする上で最も注意すべき点は、勤務実態が伴っているかという点です。
単に節税目的で名前だけを役員として登録し、実際には会社経営に全く関与していない「名ばかり役員」に対して役員報酬を支払うことは、税務調査で厳しく指摘されます。
税務調査で勤務実態がないと判断された場合、支払った役員報酬は経費(損金)として認められず、法人税が追徴課税されることになります。
これを「役員報酬の損金不算入」と呼びます。
勤務実態があると認められるためには、以下のような客観的な事実が必要です。
- 定期的に出社し、業務に従事している
- 取締役会などの重要な経営会議に出席し、議事録に署名・捺印している
- 担当する職務が明確であり、その職務を遂行している
- 会社の代表印や銀行印の管理など、重要な業務を担っている
たとえ非常勤役員であっても、経営に関する助言を行うなど、何らかの形で経営に関与している実態がなければなりません。
役員としてふさわしい働きをしているかどうかが、常に問われることを肝に銘じておきましょう。
注意点2 不相当に高額な役員報酬は認められない
勤務実態があったとしても、その業務内容や会社の業績に見合わない高額な役員報酬を支払うことは認められません。
法人税法では、役員報酬のうち「不相当に高額な部分の金額」は損金に算入しないと定められています。
「不相当に高額」かどうかは、主に以下の3つの基準で総合的に判断されます。
| 判断基準 | 具体的な内容 |
|---|---|
| 実質基準 | 役員の職務内容、会社の収益状況、他の従業員への給与の支給状況、会社設立からの期間などを考慮して判断されます。 |
| 形式基準 | 定款や株主総会の決議で定められた報酬の限度額を超えていないかどうかが問われます。限度額を超えた部分は損金不算入となります。 |
| 比較基準 | 同業種・同規模の他社が、類似の役員に対して支払っている報酬額と比較して、著しく高額でないかどうかが判断されます。 |
特に注意が必要なのが比較基準です。自社の中では妥当だと考えていても、客観的に見て同業他社の水準から大きくかけ離れている場合は、税務調査で否認されるリスクが高まります。
利益が多く出たからといって、特定の家族役員の報酬だけを急に引き上げるようなことは避けなければなりません。
注意点3 役員報酬は定期同額給与が原則
従業員の給与は業績に応じて賞与(ボーナス)を支給したり、期の途中で昇給させたりと柔軟な対応が可能ですが、役員報酬はそうはいきません。
役員報酬を経費(損金)として計上するためには、原則として毎月決まった日に、決まった金額を支払う「定期同額給与」である必要があります。
これは、経営者が利益操作のために役員報酬を自由に変動させることを防ぐためのルールです。
役員報酬の金額を変更できるのは、原則として「事業年度開始の日から3ヶ月以内」と定められています。
この期間を過ぎてから報酬額を増減させると、その変動部分が損金として認められなくなってしまいます。
ただし、例外として以下の給与は損金算入が認められています。
- 事前確定届出給与:事前に税務署へ「いつ、いくら支払うか」を届け出ることにより、役員に対して賞与を支給できる制度です。届出通りの日付・金額で支払う必要があります。
- 業績連動給与:会社の利益などの業績指標に連動して支給される給与です。ただし、適用には厳しい要件があり、多くの中小企業にとってはハードルが高い制度です。
一度決めた役員報酬は、事業年度の途中では原則変更できないという点を強く認識し、事業計画に基づいて慎重に金額を決定することが重要です。
注意点4 社会保険への加入義務が発生する
家族が役員に就任し、報酬を受け取るようになると、原則として健康保険・厚生年金保険といった社会保険への加入が義務付けられます。
これまで配偶者の扶養に入っていた場合や、国民健康保険・国民年金に加入していた場合でも、社会保険への切り替えが必要です。
社会保険に加入すると、以下のような影響があります。
- 保険料の負担:社会保険料は会社と個人が折半して負担します。会社にとっては新たなコスト増となり、個人にとっては役員報酬から保険料が天引きされるため、手取り額が減少します。
- 扶養からの離脱:年収の壁(106万円/130万円)に関わらず、役員として社会保険に加入した場合は、配偶者などの扶養から外れることになります。
なお、非常勤役員の場合は、勤務実態によって加入義務の有無が判断されます。
一般的には、代表取締役など経営の意思決定に関与している場合は、非常勤であっても加入義務があるとされるケースが多いです。
社会保険の加入は法律上の義務であり、未加入が発覚した場合は過去に遡って保険料を徴収されることもあるため、必ず手続きを行いましょう。
注意点5 家族間でのトラブルに発展する可能性
税金や社会保険といった制度上の問題だけでなく、家族という近い関係性だからこそ生じる人間関係のトラブルにも注意が必要です。
例えば、以下のようなケースが考えられます。
- 報酬や待遇をめぐる不満:「兄は専務で報酬が高いのに、弟の自分は取締役で報酬が低い」「他の従業員より楽な仕事で高給をもらっている」といった不公平感が、他の家族役員や従業員との間に亀裂を生むことがあります。
- 経営方針の対立:経営に深く関わるようになると、事業の方向性をめぐって意見が対立し、仕事上の対立がそのまま家庭内の不和につながることがあります。
- 責任の所在の曖昧さ:会社の業績が悪化したり、何らかのトラブルが発生したりした際に、「誰の責任か」をめぐって家族間で責任のなすりつけ合いに発展するリスクがあります。
- 離婚や相続時の問題:役員である配偶者と離婚する場合の財産分与や、経営者が亡くなった際の相続において、役員退職金や自社株の扱いが大きな火種となる可能性があります。
こうしたトラブルを避けるためには、事前に役員としての役割分担、責任の範囲、報酬の決定ルールなどを客観的な視点で明確に定め、議事録や契約書といった書面に残しておくことが非常に重要です。
感情的な対立を避け、ビジネスライクな関係性を保つ努力が求められます。
家族を役員にするための手続きと流れ

家族を役員として迎えることは、口約束だけでは成立しません。法的に有効な役員として認められ、税務上のメリットを享受するためには、定められた手続きを正確に踏む必要があります。
ここでは、株式会社を例に、役員就任の具体的な手続きと、後々のトラブルを避けるための役員報酬の決め方について詳しく解説します。
役員就任に必要な手続き
家族を役員に選任するには、株主総会での決議と法務局への登記申請が不可欠です。
特に同族会社では手続きが形骸化しがちですが、税務調査などで指摘を受けないためにも、一つひとつのプロセスを正式な記録として残しておくことが極めて重要です。
主な手続きの流れは以下の通りです。
| ステップ | 手続き内容 | ポイント |
|---|---|---|
| 1. 株主総会の開催 | 役員選任に関する決議を行います。定款で定められた員数を超えないか事前に確認が必要です。 | 決議内容を証明するために、必ず「株主総会議事録」を作成し、適切に保管してください。 |
| 2. 就任承諾書の作成 | 役員に選任された家族が、その就任を承諾したことを証明する書面です。 | 就任する本人の記名押印(場合によっては実印と印鑑証明書)が必要です。 |
| 3. 役員変更登記の申請 | 株主総会での決議後、2週間以内に管轄の法務局へ役員の変更登記を申請します。 | 申請には株主総会議事録、就任承諾書、印鑑証明書などの添付書類が必要です。司法書士に依頼するのが一般的です。 |
| 4. 税務署・自治体への届出 | 役員報酬を支払う場合、税務署に「給与支払事務所等の開設届出書」などを提出する必要があります。また、社会保険の加入手続きも必要です。 | 手続きが漏れていると、給与の支払いや社会保険関係で問題が生じる可能性があるため、忘れずに行いましょう。 |
適正な役員報酬の決め方
役員報酬は、会社の経費(損金)として計上できるため節税につながりますが、その金額は自由に決められるわけではありません。
税務署から「不相当に高額」と判断された部分は損金として認められず、追徴課税のリスクが生じます。
適正な役員報酬とは、客観的な基準に基づいて決定された、勤務実態に見合う金額のことです。
役員報酬を決める際は、以下の4つの基準を総合的に勘案して判断しましょう。
- 職務内容の重要性
担当する業務の責任の度合いや、経営への貢献度を評価します。代表取締役なのか、一般的な取締役なのか、監査役なのかといった役職に応じた職務内容を明確にします。 - 会社の収益状況
会社の売上や利益水準に見合った金額であることが重要です。赤字が続いているにもかかわらず高額な役員報酬を支払っていると、否認されるリスクが高まります。 - 他の役員や従業員とのバランス
社長や他の役員の報酬額、従業員の給与水準と比較して、著しくバランスを欠いていないかを確認します。 - 同業他社の報酬水準
事業内容や企業規模が類似する、同業他社の役員報酬額が最も客観的な指標となります。公的な統計データなどを参考に、自社の報酬額が世間相場から大きく乖離していないかを確認することが大切です。
これらの基準を基に決定した役員報酬は、原則として事業年度開始から3ヶ月以内に株主総会で決議し、その事業年度中は毎月同額(定期同額給与)を支給する必要があります。
安易に金額を決定せず、税理士などの専門家と相談しながら慎重に進めましょう。
非常勤役員として迎える場合のポイント
毎日出社しない「非常勤役員」として家族を迎える選択肢もあります。
例えば、経営に関する重要なアドバイスを月に数回行う、取締役会にのみ出席するといったケースです。
この場合、常勤役員とは異なる注意点があります。
最も重要なのは、非常勤であっても「勤務実態」が明確に存在することです。
名前を貸しているだけの名ばかり役員とみなされないよう、以下のポイントを押さえておきましょう。
- 経営への具体的な関与を証明する
取締役会の議事録に出席・発言した記録を残す、経営戦略に関する助言をメールや書面でやり取りするなど、客観的に経営に関与している証拠を保管しておくことが不可欠です。 - 報酬額を実態に見合ったものにする
非常勤役員の報酬は、その関与度合いに応じて常勤役員よりも低く設定するのが一般的です。出勤日数や業務内容に対して不釣り合いな高額報酬は、税務調査で真っ先に指摘される対象となります。 - 社会保険の加入義務を確認する
非常勤役員は、原則として社会保険(健康保険・厚生年金保険)の加入義務はありません。しかし、勤務日数や勤務時間が常勤従業員の4分の3以上に達するなど、勤務形態によっては加入義務が発生する場合があります。実態に即して適切に判断する必要があります。
非常勤役員は、少ない稼働で経営に参画してもらえるメリットがありますが、その立場は常勤役員以上に厳しくチェックされる傾向にあります。
報酬を支払う以上、その対価となる職務を果たしていることをいつでも証明できるように準備しておくことが肝心です。
まとめ
家族を役員にすることは、所得を分散することによる節税効果や、役員退職金の活用、将来の相続税対策など、会社経営において多くのメリットをもたらします。
しかし、その恩恵を受けるためには、勤務実態のない名ばかり役員や不相当に高額な報酬は税務調査で否認されるため、絶対に避けなければなりません。
メリットを最大限に活かし、税務上のリスクや家族間のトラブルを防ぐためにも、税理士などの専門家と相談しながら、法律に則った適正な手続きと運用を心がけることが重要です。
